短編集46(過去作品)
いつしか夫も、自分も暴力を受けたい衝動に駆られてしまっていた。夫の暴力は怒りではない。伸江が身体の奥で、そして表に出てきた淫靡な伸江が求めているものだった。暴力はもはや怒りではなく、プレーになっていた。
だが、所詮素人、素人の危険なプレーがエスカレートしては、これほど危険極まりないものはない。いつしかハードを極めるようになり、
――いつしか、こんな日が……
と思っていたのかも知れないが、夫の方に恐怖心が芽生え、伸江から去っていったのだ。
――もうこんなことはやめよう――
だが、プレーの最中に頭に浮かんでくる真っ白いすすきの穂が見える光景。伸江が望んでいるのは、その光景をずっと見ていたいと思うことだった。普段であればすぐに消えてしまう光景。淫靡な伸江でなければ、その光景に浸ることはできない。普段の伸江と、淫靡な伸江、時々一つの身体の中で入れ替わっているのかも知れない。
そのことを今伸江は知っている。
――許して――
誰に対してなのか、すすきの穂の絵を見ながら、伸江は許しを請い続ける。いつまでもいつまでもまわりに響いているオルゴールの音色を聴きながら……。
それにしても、今の伸江は一体どっちの伸江なのだろう? それを知っているのは、すすきの穂の中から見ているもう一人の伸江だけだった……。
( 完 )
作品名:短編集46(過去作品) 作家名:森本晃次