グレイ家の兄弟 THE MOVIE 「暴走中」
フレディ編
グレイ家の長男フレディは、古代の神殿っぽい建造物の入口から、元気よく歩いていた。ふと下を見ると、巨大な像の付いた祭壇があり、その前方には大量の人骨が散らばっていた。しかしフレディはこのオブジェ(?)を怖がらず、再び元気に歩き始めた。
「この神殿の中にはきっと、伝説の『七色の宝石』とかが眠ってんだろうな〜♪楽しみだ」
彼はロマンチストなところがあるので、実現しそうにない伝説も信じている。やがて、彼は大声で歌い始めた。彼の派手にいい声を聞いているのは、建物の壁や床に生えた苔だけであった。
一つの通路を通っていたとき、フレディは左の壁のほうに何か動いているものを見た。そこを照らしてみると、普通より大きめのクモやムカデ、果てはスカラベまでもがうようよと動いている。しかし、彼は虫が嫌いなほうではない。
「珍しい虫がいっぱいいる!どれかおみやげに持って帰るか。どれにしよっかな〜♪」
ワクワクしながらつぶやくフレディの目に、大きなスカラベのような虫が映った。彼の目はきらりと輝いた。
「お、こりゃすげえ!よし、決めた!」
彼はその虫を手でつかみ、ズボンのポケットに入れた。すると、その虫はポケットの中からフレディの太ももをがぶりと噛んだ。
「いって!」
彼は急いでその虫をポケットから出すと、
「こいつ、結構凶暴だな。持って帰るのはやめだ!」
と一言、その虫を遠くに投げ飛ばした。
フレディはしばらくすたすたと歩いていると、後ろから誰かの足音がした。後ろを見ると、50メートルほど離れたところに、黒い目出し頭巾をかぶり、黒いタンクトップにグレーのスウェット風のズボンを履いた、1人のエクスキューショナー(死刑執行人)がいた。
「ん?何だあれ」
男はフレディを見ると、こっちに向かって走ってきた。
「わ、何だ、こっちに来る!」
フレディはあわてて走り出した。
100メートルほど走ると、目の前に、切れ味の良さそうな三つの大きな斧が等間隔で吊るされ、振り子のように大きく揺れていた。あんな凶器が三つも続くと、タイミングよく通るのはかなり難しそうだ。しかし、フレディは大ジャンプをして、大斧を吊っているロープにつかまり、ターザンのように上手にロープに飛び移ったあと、無事に着地した。常人に劣る頭脳を持つエクスキューショナーは、三連の大斧の間に突っ込み、見事にその刃に切られ、標的を捕まえることなく倒れた。フレディは深い呼吸を2回して後ろを見ると、血を流して壁に倒れているエクスキューショナーの無残な姿を見た。
「うわ、やべェもん見た」
彼はそうつぶやくと、再び走り出した。
しばらく走ったあと、少し疲れたフレディは地べたに座り込んだ。
「ふうー、ここらでひと休みすっか」
すると、彼の胃袋も小さく叫んだ。
「う、腹減った〜」
しかし、彼はすぐに明るい顔で言った。
「そうだ、俺、いいもん持ってきたんだった」
彼はズボンのポケットから何かを取り出した。
「ビーフジャーキー!」
と大声で言うと、袋を開け、ビーフジャーキーを一本出してはむっと食べた。
「やっはりひーふはーひー、うまーい!(やっぱりビーフジャーキー、うまーい!)」
食べながら話しているせいで、まともな発音ができていない。
ビーフジャーキーを一袋食べ切ると、フレディは独り言を漏らした。
「そーいや、みんなに会ってねえけど、どこ行っちゃったんだ?」
そのとき、彼の視野に、さっきとは別のエクスキューショナーが現れた。
「あっやべぇ、またあいつだ!」
彼は走り出した。もちろん、エクスキューショナーも彼の後を追った。
「何で俺のことさっきから狙ってんだ〜!?」
エクスキューショナーは追跡をやめようとしない。
逃走を続けていると、フレディは一本の吊り橋の前に来た。それを支えるロープは腐りかけており、いつ切れてもおかしくない。しかし、今の彼には立ち止まっている余裕はなかった。グレイ家の長男は、軽やかなステップを踏むように移動し、危険すぎる吊り橋渡りに成功した。エクスキューショナーがフレディまでわずか数メートルの距離にいたとき、幸運にも吊り橋を支えていたロープが音を立てて切れ、追っ手もろとも深淵へと転落していった。フレディはそのざまを見た。
「ふう、助かった〜。バイバーイ!」
彼はそう言って走り出した。
作品名:グレイ家の兄弟 THE MOVIE 「暴走中」 作家名:藍城 舞美