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藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
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グレイ家の兄弟 THE MOVIE 「暴走中」

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フレディ編


 グレイ家の長男フレディは、古代の神殿っぽい建造物の入口から、元気よく歩いていた。ふと下を見ると、巨大な像の付いた祭壇があり、その前方には大量の人骨が散らばっていた。しかしフレディはこのオブジェ(?)を怖がらず、再び元気に歩き始めた。
「この神殿の中にはきっと、伝説の『七色の宝石』とかが眠ってんだろうな〜♪楽しみだ」
 彼はロマンチストなところがあるので、実現しそうにない伝説も信じている。やがて、彼は大声で歌い始めた。彼の派手にいい声を聞いているのは、建物の壁や床に生えた苔だけであった。

 一つの通路を通っていたとき、フレディは左の壁のほうに何か動いているものを見た。そこを照らしてみると、普通より大きめのクモやムカデ、果てはスカラベまでもがうようよと動いている。しかし、彼は虫が嫌いなほうではない。
「珍しい虫がいっぱいいる!どれかおみやげに持って帰るか。どれにしよっかな〜♪」
 ワクワクしながらつぶやくフレディの目に、大きなスカラベのような虫が映った。彼の目はきらりと輝いた。
「お、こりゃすげえ!よし、決めた!」
 彼はその虫を手でつかみ、ズボンのポケットに入れた。すると、その虫はポケットの中からフレディの太ももをがぶりと噛んだ。
「いって!」
 彼は急いでその虫をポケットから出すと、
「こいつ、結構凶暴だな。持って帰るのはやめだ!」
 と一言、その虫を遠くに投げ飛ばした。

 フレディはしばらくすたすたと歩いていると、後ろから誰かの足音がした。後ろを見ると、50メートルほど離れたところに、黒い目出し頭巾をかぶり、黒いタンクトップにグレーのスウェット風のズボンを履いた、1人のエクスキューショナー(死刑執行人)がいた。
「ん?何だあれ」
 男はフレディを見ると、こっちに向かって走ってきた。
「わ、何だ、こっちに来る!」
 フレディはあわてて走り出した。

 100メートルほど走ると、目の前に、切れ味の良さそうな三つの大きな斧が等間隔で吊るされ、振り子のように大きく揺れていた。あんな凶器が三つも続くと、タイミングよく通るのはかなり難しそうだ。しかし、フレディは大ジャンプをして、大斧を吊っているロープにつかまり、ターザンのように上手にロープに飛び移ったあと、無事に着地した。常人に劣る頭脳を持つエクスキューショナーは、三連の大斧の間に突っ込み、見事にその刃に切られ、標的を捕まえることなく倒れた。フレディは深い呼吸を2回して後ろを見ると、血を流して壁に倒れているエクスキューショナーの無残な姿を見た。
「うわ、やべェもん見た」
 彼はそうつぶやくと、再び走り出した。


 しばらく走ったあと、少し疲れたフレディは地べたに座り込んだ。
「ふうー、ここらでひと休みすっか」
 すると、彼の胃袋も小さく叫んだ。
「う、腹減った〜」
 しかし、彼はすぐに明るい顔で言った。
「そうだ、俺、いいもん持ってきたんだった」
 彼はズボンのポケットから何かを取り出した。
「ビーフジャーキー!」
 と大声で言うと、袋を開け、ビーフジャーキーを一本出してはむっと食べた。
「やっはりひーふはーひー、うまーい!(やっぱりビーフジャーキー、うまーい!)」
 食べながら話しているせいで、まともな発音ができていない。

 ビーフジャーキーを一袋食べ切ると、フレディは独り言を漏らした。
「そーいや、みんなに会ってねえけど、どこ行っちゃったんだ?」
 そのとき、彼の視野に、さっきとは別のエクスキューショナーが現れた。
「あっやべぇ、またあいつだ!」
 彼は走り出した。もちろん、エクスキューショナーも彼の後を追った。
「何で俺のことさっきから狙ってんだ〜!?」
 エクスキューショナーは追跡をやめようとしない。

 逃走を続けていると、フレディは一本の吊り橋の前に来た。それを支えるロープは腐りかけており、いつ切れてもおかしくない。しかし、今の彼には立ち止まっている余裕はなかった。グレイ家の長男は、軽やかなステップを踏むように移動し、危険すぎる吊り橋渡りに成功した。エクスキューショナーがフレディまでわずか数メートルの距離にいたとき、幸運にも吊り橋を支えていたロープが音を立てて切れ、追っ手もろとも深淵へと転落していった。フレディはそのざまを見た。
「ふう、助かった〜。バイバーイ!」
 彼はそう言って走り出した。