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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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堕とされしものたち 機械仕掛けの神

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「鴉よ、余は知っているぞ。貴公が無実の罪を着せられたことを――策略に陥れられたことを――余と共にこの地上[ノース]の支配者に成ろうではないか!」
「断る」
 静かな一言ではあったが、その言葉は何よりも意味のある、鴉がこの地上[ノース]で生きて来た時間の重みを持っていた。
「そうか……ならば、余にとって貴公は脅威でしかない。どうする鴉、余と戦うか?」
「ルシエ……」
 鴉は手を硬質化させて戦闘に備えた。だが、ルシエは鴉に背を向けて歩き出した。
「今はまだその時ではない。だが、余の邪魔をすることがあれば、鴉、貴公とて余の敵と思え」
 漆黒の翼を羽ばたかせ堕天者[ラエル]は輝く天に羽ばたいた。その際、彼は大きくこう叫んだ。
「天から堕ちた時にルシエの名は〈命の書〉からその名を消された。余の名はゾルテ!」
 ゾルテ――その名は古の時代にこの世界の人間たちに信じられていた闇の魔王の名。ルシエは今、その名を継いだのだ。
 ファリスは何が起きたのか全くわからなかった。今の二人の会話も理解できなかった。ただ、わかることはルシエが鴉の敵であることだけ。
 自分の後ろで脅えるファリスに鴉は冷たく言い放った。
「今あった出来事は忘れろ。そして、今後一切私に決して近づくな。これ以上、私と関われば命がないと思え」
 動けずにいるファリスをこの場に残して、鴉は深い闇の中へ溶けてしまった。
 ファリスは最初からわかっていた。鴉から死の匂いを感じ、鴉の近くにいれば自分にも死が降りかかることがわかっていた。しかし、それでも鴉に対する興味や好奇心が先立ってしまった。
 だが、ルシエを前にしてファリスは自分の考えが甘かったことを悟った。〈ホーム〉で生き抜いて来たファリスですら、ルシエを見ているだけで身体が震えた。次元が違う生き物であることを本能的に感じ取ったのだ。
 ファリスは鴉に会うことを止めて自分の家に戻ることにした。

 スラム街にも格差があり、テントが密集する地区やプレハブ小屋が密集する地区、ファリスの住む地区は?比較的?治安がよく、魔導炉からのエネルギー供給も行き届いている。
 鉄板を何枚も無造作に貼り付けたような小屋の一つにファリスは入った。これがファリスの家だ。
 家の中は四平方メートルほどで、拾って来たテーブルやソファーに修理途中のテレビなどが乱雑に置いてある。ファリスはこの家で三歳年上の兄と二人で暮らしている。
 昼間の間ファリスの兄であるザックはジャンクショップで働き、夜からファリスは兄と入れ違いでレストランに働きに行く。だが、今日はザックの仕事が休みで一日中家に中にいた。
 ザックは工具類を床に広げ、つい先日拾って来たテレビ修理をしていた。
「ただいまー!」
 テレビの修理に集中しているザックは顔を上げずに何も言わなかった。そんなことなどファリスは気にしない。ザックは何かに集中していると周りが見えなくなるのだ。きっと、ファリスが帰って来たことにも気づいていないに違いない。
 床に落ちている雑誌を拾い上げたファリスはそのままベッドに横になった。
 広げた雑誌のページにはファリスの住む巨大都市エデンの観光マップが載っていた。料理のおいしい店や流行のブティックや武器専門店など、ありとあらゆる情報が載っているが全てファリスには無用な物でしかなかった。ファリスの収入ではこの雑誌に載っているような店にはいけない。だから、こんな雑誌を見てしまうのだ。
 ファリスの目がファッションを紹介しているページで留まった。羨ましくないと言えば嘘になるが、これも自分にも不要なもの。スラムで暮らすには生きる最低限のものがあればいいのだ。
 ため息をついたファリスは雑誌を投げ飛ばした。
 投げ飛ばされた雑誌はザックにぶつかった。
「いてっ! ……なんだ、帰って来てたのか」
「遅い、遅〜い。泥棒が入って来ても気づかないでしょ?」
「どうせこの家には盗むものなんてないから平気だって」
 それもそうだとファリスは思って再びベッドにゴロンと寝転がった。
 ザックは分解していたテレビを元の形に戻して、プラグをコンセントに差し込んで電源スイッチをオンにした。
 二三型液晶ディスプレイに画像が映し出される。
「イエーイ! 付いたぜ。ファリス、テレビが付いたぞ!」
 歓喜するザックは声を張り上げてファリスを叩き起こした。
 ゆっくりと目を開けたファリスは気だるそうに身体を起こして、ザックに腕を引っ張られながらテレビの前に座らされた。
「テレビなんて電気代かかるだけじゃん」
「そんなこと言うなよ、テレビの電気代なんて大したことないだろう」
「リモコンはないの?」
「リモコンは落ちてなかった」
「ふ〜ん」
 電気代がかかると言いながらもファリスは興味津々でテレビのチャンネルを回しはじめた。
 ローカルテレビ局のニュース番組でファリスとザックの目が留まった。生放送のニュース番組に映し出されている映像はファリスたちの住むスラム三番街の映像だった。
 大企業の一つがスラム三番街を取り壊して歓楽街に造り替えるというニュース。このスラムに住む者たちは誰も聞いたことのないニュースだった。
 画面に映し出される重機類の数々。その中には対キメラ生物用の兵器まであった。
 ニュースの映像に向かってザックは声を張り上げた。
「なんてこった!? 奴らは力ずくで俺たちを――」
 大きな音によってザックの声が掻き消された。
 地面が揺れ、重機の動く音に混じって怒り狂う人々の声が聞こえて来る。
 ファリスは血相を変えて家の外に飛び出した。
 外ではすでに建物の取り壊し作業がはじめていた。
 ドラム缶型のボディにドリルアームを装着した小型ロボットたちが壁に穴を開け、ブルドーザーが人々をひき殺す勢いで走り回っている。
 スラムに住む人々には市民権がない。そこに住む人々はまるで塵のように扱われ、多少の非合法的行為の適応も暗黙のうちに許されてしまう。
 ドラム缶型のロボットがドリルの回転音を立てながらファリスの家の取り壊しを開始する。
「止めてよ!」
 ファリスはドラム缶型ロボットのアームにしがみ付くが、人間の力など及ぶはずがなく、振り回されるようにしてファリスは投げ飛ばされてしまった。
「イタタタタ……」
 尻を擦りながら起き上がったファリスは、再び自分の家を壊そうとするドラム缶型ロボットに飛び掛かろうとしたが、それを万能ベルト装着したザックが止めた。
「俺がどうにかするから下がってろ!」
 ザックはベルトから工具を抜いて、ドラム缶型ロボットの背中を開けて配線をいじりはじめた。やがてドリルアームは緩やかに停止して、ドラム缶型ロボットは完全に止まった。だが、喜ぶのはまだ早い。辺りにはまだまだ数え切れないほどのロボットたちが忙しなく動いている。
 建物を構成していた鉄板がもとの鉄屑に戻り、人々の抵抗は空しく終わっていく。
 所々から爆発音が轟き、火の手が上がっている場所もある。スラムに住む人々がついに銃器で応戦に出たのだ。