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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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堕とされしものたち 機械仕掛けの神

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機械仕掛けの神04


 病院に着いた頃には夏凛の出血は止まっており、輸血だけをしてすぐに病院を出ることにした。ここに長居をするのは危険だ。うっかり普通の病院来てしまったことによって、敵に居場所がばれてしまう確立が大きくなってしまった。夏凛は今更ながら悔やんだ。
 雨はすでに止んでいたが、空に広がる曇天が地上を圧迫している。
 病院を出ると二人の人物がファリスたちを出迎えた。白い影のひとりは夏凛にも見覚えがあった。
「こんにちは夏凛様」
 夏凛に声をかけたのは政府組織ヴァーツに所属するフィンフであった。その横にいるのは同じくヴァーツに所属するツェーンだ。
 ファリスを後ろに押し退けて夏凛が前に出た。
「こんにわぁ、フィンフさん。アタシ今すご〜くヒマなんですよぉ、だから一緒にお食事に行きませんかぁ?」
 夏凛の声のトーンはいつもよりも高めで、態度もぶりっ子している。
 失笑を浮かべるフィンフはすぐに表情を戻して落ち着いた口調で話しはじめた。
「夏凛様、嘘はいけませんよ」
「ウソだなんて、そんなことないですぅ」
「いえ、あなたは敵に命を狙われているはずです。ですから、こうしてわたくしとこちらに居りますツェーンで、あなた方お二人の保護と事情聴取に参りましたのですよ。事情がお分かりになられたらのなら、わたくしたちとあちらの車にお乗りください」
 フィンフは後ろに止まっているリムジンを指差した。
 夏凛が後ろを振り向くとファリスが心配そうな顔をしていた。
「この人たち誰なの、夏凛の知り合い?」
「申し訳ありません、わたくしとしたことがファリス様に自己紹介をするのを忘れておりました。政府組織ヴァーツに所属するフィンフと申します」
 続いてツェーンも自己紹介をした。
「僕も同じくヴァーツに所属するツェーンと言います」
 ツェーンの口調はとても柔らかで、それを聞いたファリスの心をほっとさせた。
 夏凛はフィンフがヴァーツであることを知っていたし、フィンフが戦っているところも見ている。そのため、何の疑問も抱かずにリムジンに乗り込んだ。
 ファリスもまた、夏凛がリムジンに乗り込んだのを見て安心してリムジンに乗り込む。そして、全員が乗り込んだのを確認してから、最後にツェーンは車に乗り込んだ。
 走り出した車は大きな通りを進み、巨大都市の中心に向かっている。
 都市の中心には円形の土地があり、その周りは濠で囲まれているその都市の中心に聳え立つ絢爛豪華な巨大建築物は天を突き、現代風というよりはバロック建築の宮殿を思わせる宗教かがったデザインがなされていた。その宮殿の名は夢殿――政府の総本山だ。
 リムジンの中で寛ぐファリスと夏凛は、フィンフに勧められるままに飲み物を受け取った。
 車内は広々としていたが、フィンフは夏凛の横に、ツェーンはファリスの横に、常に神経を尖らせながら座っていた。
 咳払いを軽くしたツェーンはファリスをちらっと見てから夏凛に目を向けた。
「僕たち二人で夏凛様とファリス様の護衛をさせていただきます。僕がファリス様を、フィンフが夏凛様の護衛をさせていただきます。そして、今向かっている場所は夢殿です。夢殿の中に入れば、お二人の安全は絶対に保障されます」
 ツェーンの言葉に真剣に耳を傾けていた夏凛の眉がぴくりと動く。ファリスも驚いて口をO型に開けてしまった。
 夢殿の出入りを許されているのは主に要人であり、一般人の出入りは基本的に許されていない。つまり、ファリスと夏凛は基本的外ということになる。それほどまでの重要人物のファリスと夏凛はなってしまったということだ。ヴァーツがわざわざ向かいに出向くだけのことはある。
 ツェーンは一息つき、
「質問はありますか?」
 とファリスと夏凛の顔を交互に見た。
 ファリスはいろいろと尋ねたいことがあったが、考えが錯綜して何を質問していいのかわからなかった。ファリスが難しい顔をしていると、夏凛が可愛らしく手を上げて?魅せた?。
「はぁ〜い、質問で〜っす。アタシたちはどこの誰に狙われているから、保護されるんですかぁ?」
 ツェーンが答える前に、フィンフが速答した。
「それは夏凛様たちもご存知のはずです。わたくしたちにはそれ以上申し上げられません」
 何かを隠すような言い方をしたフィンフに対して、夏凛は顔を伏せて舌打ちをした。
「では、僕たちからも質問をさせていただきます。夏凛様たちは誰に狙われて、狙われる理由を何かご存知ですか?」
 今のツェーンといい、先ほどのフィンフの回答といい、どちらも遠まわしな言い方だった。必要以上に政府の事情を知られたくないという意図と、それでいて夏凛たちが知ってしまった事情を聞きだしたいのだ。
 答える気のなさそうな夏凛は外の景色を眺めている。できれば夏凛から事情を聴いた方が、より詳しいことがわかるのではないかと考えていたツェーンであったが、相手に答える気がないのならファリスに訊くしかない。
「ファリス様は何かご存知ですか?」
「ユニコーン社のハイデガーって奴が――」
 話している途中で自分を睨みつける夏凛が目に入ったので、ファリスはすぐさま口を噤み俯いた。
 口を閉ざす二人に対して強引な手を使うこともできたが、あくまで二人は保護する対象であり、犯罪者の類ではない。ツェーンはお手上げという素振りを見せてフィンフに後を任せた。
「仕方ありませんね。夏凛様たちを狙っていたのはハイデガーだということはわかっています。しかしながら、夏凛様とハイデガーの接点はなく、ハイデガーとの唯一の接点はファリス様です。ファリス様はハイデガーが社長を勤めるユニコーン社によって〈ホーム〉から立ち退かされたというところまでは調べがついています。ですが、それがハイデガーに狙われる原因に成り得るのか。――そもそも、狙われたのはどちらなのか、それともお二人が狙われたのか、そのことについてお聞かせ願いたいのですよ」
 ファリスは夏凛に顔を向け、夏凛は無表情に外の景色を眺めている。
 あやふやな状況下であったが、それでも政府は二人を保護――というより野放しにできない理由があるのだ。最悪の場合、このようなことも検討されている。
「お話し願えないのなら、お二人を?拘束?もしくは、この世から消えていただく場合もありますよ」
 フィンフは微笑みながら言ってのけた。真横にいたファリスはぞっとする思いだった。これでは車に乗り込んだその時から、?保護?ではなく?拉致?されたようなものだ。
 人心に穏やかではない雰囲気が車内を満たし、ファリスは全てを告白したい思いだった。しかし、夏凛が話すようすを見せないのでファリスは想いを喉の奥へ呑み込んだ。
 場の雰囲気を汲んでツェーンが苦笑いをして見せる。
「夏凛様は一流のトラブルシューターとして名を馳せていますから、脅しには屈しないでしょうし、こちらのファリス様も口が堅いようで、〈ホーム〉育ちの人はみなさんこのようなのでしょうかね」
 突然車内が揺れた。
 リムジンは何かの攻撃を受け、近くを走っていた車に衝突しながら緊急停止した。
 運転手からの声がスピーカー越しに響いた。
「街中ではありえない数のキメラ生物が襲ってきます! どうしますか、このまま逃げますか?」