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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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堕とされしものたち 機械仕掛けの神

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「今のアタシは前のアタシとは違うって言いたいところだけど、雨に濡れるとどういうわけだか力が出ない」
「そうだ、俺たちは水に濡れると運動能力が下がってしまう」
「なるほどね、それはアナタも同じでしょ?」
「そうだ、だが、俺は強い。お前が持つ天人[ソエル]の力見せてもらおう」
「今日は特別サービスでね」
 地面を蹴り上げ天に舞う夏凛から水雫が落ちる。
 ハイデガーの頭に夏凛の回し蹴りが炸裂する。夏凛はそのまま地面に手を付き着地しつつ飛び上がり、間合いを取って地面に落ちていた大鎌をハイデガーに向かって投げつけたしかし、大鎌の刃はハイデガーの胸に突き刺さる寸前に受け止められてしまった。
「そんな攻撃では俺は倒せんぞ」
「でも、アナタは自分の生命力を鼻にかけて防御が甘い。乱暴な戦い方をしているうちはアタシの繊細な攻撃を避けられない」
「それがどうしたというのだ、攻撃をしても俺を仕留めることができないのだろう」
 ハイデガーは大鎌の柄をへし折って後ろに放り投げた。
 夏凛はハイデガーと間合いを取りながら考える。確かにハイデガーに攻撃を喰らわすことができても、ダメージをならないのでは意味がない。
 鴉は夏凛にこう説明したことがある。ソエルを倒すには『弱点は身体のどこかにある核を壊すことのみ』だと。この説明から察するに核はそれぞれのソエルで違う場所にあることになり、もしかしたら移動することが可能なのかもしれない。
 自分にとってこの戦いが不利であることを悟った夏凛は軽くした打ちをした。
 ハイデガーの両腕が二丁の銃へと変化する。
 銃口が火花を噴き魔導弾が夏凛目掛けて連続発射された。
 アクロバットを決めながら、夏凛はヒトとは思えぬ洞察力と瞬発力で銃弾を躱す。夏凛はそのままハイデガーとの距離を縮め、回し蹴りを放つ。
 夏凛の右足がハイデガーの頭部に炸裂し、そのまま回転を維持し左足が胴を蹴り飛ばし、もう一度回転した夏凛の手にはどこからか取り出した大鎌が握られており、その刃はハイデガーの膝を切断した。
 足を失い倒れつつもハイデガーは銃を放った。銃弾が夏凛の右肩を貫き、彼は後方に吹き飛ばされ、左手を地面に付きながら着地を決めた。
 右肩は重症だった。
「くっ……アタシの再生力はアンタらほどじゃないけど、それなりにあるつもり。でも、さすがにこれは……」
 大鎌をどこかに消した夏凛は右腕で肩を抑えた。それで血が止まるはずもなく、夏凛の表情は厳しい。
 ハイデガーの脚が生え変わり、ゆっくりと立ったハイデガーは銃口を夏凛に向ける。
 魔導弾を一発受けただけで重症だ。あれを二発も三発も受けてはいられない。
 夏凛は冷静になれと自分に言い聞かせる。
 核の位置を考えなければいけない。再生は核を中心に起こっていると推測される。つまり、首を切り飛ばした時も、腕を切り飛ばした時も、脚を切り飛ばした時も、胴体から再生した。いつか鴉が核を奪われた時は、心臓の位置に核があったが、ハイデガーも同じ場所にあるのか。普段は心臓の位置に核があり、それは自分の意思で移動することができるということなのか。
 どこに核があるのかわからない以上は、可能性の高い場所を狙うしかない。
 夏凛はハイデガーに向かって走り出した。飛び掛る銃弾を避けるが、その動きは先ほどに比べて切れがない。自然と身体が左肩を庇う動きをしてしまっているのだ。
 銃口が火を噴き、その銃弾を夏凛は避け損なってしまった。夏凛の頬に紅い線が走った。かすり傷であったが、夏凛は地面にうずくまり、顔を伏せて震えた。
 ハイデガーは銃口を夏凛に向けているが撃つ気配は見せない。
「どうした、どうしたのだ。もっと俺を楽しませろ!」
 ハイデガーは何があろうと負けるとは思っていない。だから、この戦いを楽しみ、夏凛を弄んでいる。簡単には殺さない。
 俯き震える夏凛は嗤っていた。
「……ふふっ」
「何が可笑しいのだ、恐怖のあまりに精神を病んだのか?」
 高笑いを張り上げながら夏凛が凄い勢いで顔を上げた。
「ざけんなクソ野郎! 俺様の顔に傷つけやがって、いい度胸してじゃねえかテメェッ!」
 狂気の目をした夏凛はアスファルトの地面を砕きながら地面を蹴り上げ、ハイデガーでも捉えることのできなかったスピードで拳を大きく振った。
 夏凛の拳が顎を砕き、ハイデガーの巨体が大きく吹き飛ばされ、落下しながら地面を滑った。
 地面に転がるハイデガーに夏凛が上空から襲い掛かる。身体の重さを重くした夏凛の足がハイデガーの顔とともに地面を大きく砕き飛ばす。
 攻撃の手を止めない夏凛は大鎌を天高く構え、ハイデガーの胸に大きく振り下ろした。 銃口が火を噴く。大鎌は肉を貫く前に止まり、夏凛は腹を押さえながら地面に背中から倒れた。
 首のないハイデガーが夏凛の首倉を掴んで持ち上げる。
 夏凛は抵抗を止めた。
 ハイデガーの首が生える。その顔についている双眸は燃えるように紅い。
「なかなかだったと褒めてやろう、だが終わりだ。血を多く失ってしまったので、お前の血を飲んでやろう、光栄と思え」
「嫌だね」
 不適に笑った夏凛は両足でハイデガーの腹を蹴り、うまいこと逃げ出すと、大声で叫んだ。
「心臓を狙って!」
 銃口が炎を噴いた。紅蓮に燃え上がる炎は咆哮をあげ、銃弾が纏っていた炎は大きな口をハイデガーを呑み込み、銃弾そのものはハイデガーの胸を貫いた
 何かが弾ける音がした。それは硝子が割れた時の音に良く似ている。
 ハイデガーが大きな口を開けて喉を押さえた。彼の身体に流れる血が枯れていく。
 灰は灰に塵は塵に。ハイデガーは消滅した。その先には銃を構えたファリスが地面に尻餅をついていた。
 ファリスはすぐさま地面に横になっている夏凛に駆け寄った。
「大丈夫、夏凛!」
「そうじゃなくって、どうして戻ってきたの、行けって言ったのに!」
「だって! 助けてあげたんだから、ありがとうぐらい言ったらいいじゃん!」
「助けてくれなんて言ってない」
「今の見たでしょ、あたしだって役に立てる」
「銃が自動照準で念じた方向に飛んだだけ。それに相手も油断してから」
 ファリスは顔を膨らませて、すぐに笑った。よかった、夏凛は大丈夫そうだ。
 しばらくしてアリスがこの場にやって来て、重症の夏凛を見て驚いた表情を見せた。
「まあ、夏凛様がこんな重症を負うなんて、すぐに救急車をお呼びいたします」
「早く呼んで……そうしないとマジでアタシ死ぬから」
 そう言いながらも夏凛の右肩の血は止まっている。じきに腹のから出る血も止まるだろう。
 夏凛は近くで自分を見つめるファリスの顔をちらっと見てから目を瞑った。
 ――命賭けるなんて自分らしくもない。そう思って夏凛は苦笑したが、近くにいたファリスはその笑いの意味を理解できなかった。