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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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堕とされしものたち 機械仕掛けの神

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 ゾルテは理解できなかった。そして、悔しかった。自分は誰かの掌の上で踊らされているのでは、と考えたのだ
「放せ、余を放すのだ!」
 叫ぶゾルテに対してルシエルはただ不適な笑みを浮かべるだけだった。
「放せというのか、愚か者が。ここに永遠に囚われている気か? 余と来るがよい」
 ルシエルはゾルテの腕を強引に引き、開かれた門から発せられる光の中に飛び込んだ。
 二人が門に飛び込んですぐに、門は重々しい音を立てながら閉じられた。
 門番は顔を覆って泣き叫んだ。恐ろしいことが起きた。未だ嘗てないことが起こってしまった。それは何かが起こる前兆としか考えられなかった。
 〈裁きの門〉を開くことができる者は限られているはず。門を開くことができる者は天人[ソエル]を罰する立場にある者のはず。では、なぜにゾルテを外に連れ出すようなまねをした。そもそも、〈裁きの門〉を開けることのできる者でさえ、その中に入ることはできないはずであり、中に入れたとしても外に出ることはできないはずであった。

 雨が降り続く中、ファリスを抱えながら走る夏凛が怒鳴り散らす。
「ったく、雨降ってるし、戦いに巻き込まれたら服が汚れるし、まだお金貸してもらってなかったのに!」
「そんなこと言ってないで早く逃げなきゃ」
「ファリスに言われなくったってわかってる。それにアタシのこの屋敷の敷地ないじゃ力が封じられて、分が悪い」
 走り続けた夏凛は屋敷を囲う鉄格子の前まで来た。普段の夏凛ならばファリスを抱えて楽々飛び越えることができるだろうが、今は無理だった。
 夏凛は息を切らしながらファリスを地面に降ろし左右を見渡した。
「門での待ち伏せは基本だけど、そこ以外に出る場所がない。どうするファリス?」
「どうするって聞かれてもあたし困るよ」
 鉄格子の壁はジャンプして登れる高さではなかったし、鉄格子の先端は槍のように尖っている。
「夏凛見て!」
 ファリスが後方を指差した。追っ手が迫っていた。この場で立ち尽くしている暇はない。 夏凛は大鎌をどこからか出して大きく振りかぶった。
 金属音が鳴り響き、大鎌は鉄格子に弾かれた。
「手が痺れたじゃん。やっぱ普通の鉄格子じゃないし、切れるわけないじゃん」
 夏凛が逆切れして喚き散らしている間にも追っては迫っていた。
 ファリスは夏凛の腕を掴んで強引に走り出した。
「逃げなきゃ!」
「アリスちゃん助けに来て〜っ!」
 爆音と共に発射された魔導弾が光の尾を引きながら追っ手に襲い掛かる。その光を見た夏凛は、それがすぐにアリスが発射した〈コメット〉と呼ばれるロケットランチャーだということがわかった。
 轟々と地面ギリギリに飛ぶ魔導弾は、大地を剥ぎ取り、風を巻き起こす。巨大な光は追っ手を呑み込み、そのまま夏凛たちの横を掠め飛んだ。その反動で夏凛は巻き起こった風によって大きく飛ばされた。
「この機械人形がっ! アタシらまで殺す気!?」
 地面に倒れた夏凛は身体を泥だらけにしながらすぐさま立ち上がり、近くに倒れているファリスに手を貸して立たせると、再び走り出した。
 追っ手の姿は今のところは見えないが、いつどこで出くわすかはわからない。
 正面門まで辿り着くと、そこにはやはり敵が待ち伏せをしていた。そこにいたのはハイデガーだった。それもひとりで立っていて、屋敷の敷地内の入ってくるようすはなかった。
 夏凛はすぐに察した。
「中に入って来れないんでしょ?」
「ガハハハ、よくわかったな、その通りだ。だから早く外に出て来い」
 ハイデガーは嘘をつくことをしなかった。それに対して夏凛が微笑う。
「アナタ交渉ごとか下手でしょ。こっちに来れないのがわかって、わざわざ出るはずないでしょ……と言いたいところなんだけど、こんなところでいるわけにもいかないんだよねぇ〜。中の敵はいつかはアリスちゃんが殲滅させるとしても、居場所がばれている以上は次の敵が来る。つまり、ここは何があろうと外に出なきゃいけないってわけ」
 夏凛は何時にもない真剣な顔をしていた。それを見たファリスに不安が過ぎる。
「夏凛……」
「ファリスのことはウチの使用人をやってる限りは守ってあげるから。アナタはここにいるように、中にいればハイデガーは手を出せないから。それから中の敵はアリスちゃんに殲滅されている頃だと思うから、そっちもたぶん平気」
 大鎌の柄を強く握り直した夏凛は足に力を入れた。ここを出たらすぐに力を取り戻すが、出たと同時にハイデガーも襲ってくるだろう。
 夏凛は屋敷と外の境目に立って、後ろを振り返った。
「やっぱりぃ、裏門に逃げるって作戦に変更しようか?」
 と言った次の瞬間には、夏凛は身体を回転させて外に飛び出し、大鎌を大きく天に向かって振り上げていた。
 大鎌は見事にハイデガーの首を跳ね飛ばした。それでも夏凛は攻撃の手を止めずにハイデガーの左腕を切り落とし右腕も切り落とそうとした。しかし、ハイデガーの右手の方が早かった。
 拳が夏凛の横を掠め、夏凛は後ろに飛び退いて間合いを取った。
「核ってのがあるらしいけど、アタシはそれがどこにあるのか詳しく知らないの!」
 大鎌を地面に投げ捨てた夏凛は素手で構えた。
 ハイデガーの再生していく。首が生え、腕が生え、不死身を思わせる。
「ガハハハ、武器を捨ててどうするのだ? 今更命乞いをしても無駄だ」
「命乞いなんてしない。する前に走って逃げる。アタシが大鎌を使うのはそっちの方が見た目的にいいと思ってるからで、実は素手の方が強いの!」
「おもしろい、おもいろいぞ。ノエルが俺たちに素手で挑むか?」
「それはちょっと違う。今ならわかる。アタシはアタシの中に組み込まれた存在が何であるか詳しく知らなかった、でも鴉と出逢ってわかったの。アタシはアナタたちの力をこの身体に組み込まれた。アナタたちが悪魔――堕天使ってところだね」
 妖艶とした笑みを浮かべた夏凛に力が漲ってくる。
 ハイデガーが目を見開く、こんなことがあるはずがなかった。
「なんということだ、なんということなのだ。そんな莫迦なことがあってたまるものか……ノエルが天人[ソエル]の力得るはずがない、まさか貴様も〈Mの巫女〉なのか!?」
「〈Mの巫女〉って何?」
「俺たちが最も恐れる未来に現れるであろう第三の種族のことだ。その遺伝子を持っているのが、そこにいる娘だ!」
 ハイデガーに指差されたファリスはびくっと震える。やはり敵はファリスを狙っていたのだ。
 ファリスが狙われているとわかれば、それだけで状況はある程度好転する。
 夏凛がファリスに向かって叫ぶ。
「裏門まで逃げて! 運が良ければアリスちゃんと一緒に外に逃げるの。こいつはアタシが喰い止めるから……」
 夏凛から表情が消え、氷のような瞳でハイデガーを見据えていた。
「ガハハハ、いい度胸をしている。俺を喰い止めるというのか、いいだろう相手になってやる」
「相手をしてあげるのはこっち。ファリス何してんの、早く逃げろって言ったでしょ!」
 夏凛に怒鳴られてファリスは走り出した。夏凛はすでにファリスを見ていない。ハイデガーもそうだ。二人は互いを見据えている。