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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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堕とされしものたち 機械仕掛けの神

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 アリスはテーブルの上に置いた木箱の蓋を開ける。木箱の中には紅い布に包まれた何かが入っていた。その布をアリスが丁重に取り払うと、中から装飾の美しい銃が現れた。
 この銃はアリスの主人[マスター]である魔導師マナがつくり出した魔導具である。
 銃を手に取ったアリスはホルスターと一緒にファリスに渡す。
「使用の仕方は普通の銃と同じですが、銃は扱えますか?」
「うん、まあなんとか」
 ファリスの言葉に頷いたアリスは説明をはじめる。
「使用方法は普通の銃と同じですが、弾は無限で御座います。ですが、エネルギー源は魔導であり、サラマンダーと呼ばれる存在の力を借りて炎の玉を出しています。そのため、条件が悪い場合に使用ができなることが御座いますのでお気をつけください」
 銃を物珍しそうにファリスは見てアリスに質問をした。
「条件って何?」
「簡単に言いますと、サラマンダーの気分次第でございます。弾が出なくなることは早々あることではありませんので、ご心配なさらずにお使いください」
 フルメタルのボディに紅蓮の炎がデザインされている銃。その銃の形状はセミオートピストルで握り[グリップ]に弾倉[マガジン]を差し込むタイプになっているが、その部分が外れることはなく、あくまでデザインだった。
 アリスの耳が微かに動く。
「――来客です。ですが、不法侵入の招かれざる客のようで御座います。それも多勢の乱暴者たちのようで御座いますね」
 アリスの耳はこの屋敷に侵入した者たちを感知していた。
 この屋敷は特殊な魔導結界によって守られているはずだった。妖物やキメラ生物の類は庭にも立ち入ることができず、人間なども中から入り口を開かない限り、外から進入できないはずだった。
 夏凛は大鎌をどこからか取り出し構える。ファリスも受け取った銃を構え、辺りを見回しながら呼吸を落ち着かせる。
 窓と扉が同時に打ち破られた。流れ込んで来る戦闘員。ライフルがファリスたち向かっていっせいに構えられた。
 夏凛が不適に笑う。
「敵意丸出し、つまり敵ってことだねぇ〜。アリスちゃんに任せるから、屋敷が破損したらアタシのところに請求しちゃっていいからね」
 夏凛は敵から目を放さないようにファリスに近づこうとしたが、銃弾が夏凛の足元に打ち込まれ、歩くことを妨害された。
 機械人形の口元が微かに動く。彼女は何かを小声で唱えていた。
「コード000アクセス――80パーセント限定解除」
 コードを唱えるアリスに気が付いた夏凛は急いでファリスに近づき、ファリスの身体を抱きかかえると発射される銃弾を死ぬ気で避けながら敵を掻い潜り、窓から外に逃げ出した。
 アリスが不適に笑い、高らかに声をあげる。
「コード008アクセス――〈ショックウェーブ〉発動!」
 水面にできた波紋のようにアリスを中心として空気が震える。家具が揺れ、シャンデリアが砕け散り、戦闘員が持っているライフルが暴発する。戦闘員たちは床に転げまわりながら身体を痺れさせて振るえている。
「コード002・005・006・007・013連続アクセス――〈シールド〉召喚[コール]・〈ウィング〉起動・〈ブリリアント〉召喚[コール]・〈メイル〉装着・〈シザーハンズ〉装着」
 アリスは手に〈シールド〉を構え、背中には黄金に輝く骨組みだけの翼、身体の周りには四つの球体がダイヤのようにきらきらと輝きを放っている〈ブリリアント〉が浮かんでいて、右手には鳥の嘴のような鉤爪が装着された。
「屋敷中に塵が散らかっているようでございますね。主人[マスター]がお帰りになられるまえに掃除をいたしましょう」
 ふわりと宙に浮いたアリスは、そのまま上空を高速で飛んで部屋を出て行った。

 底なし沼の大地。紅蓮の炎でできた雲。稲光の走る黒い空。
 闇色の翼を大きく広げ、ゾルテは出口を探して夢幻の世界を彷徨っていた。
 泣き叫ぶ風がゾルテの耳を腐食するが、驚異的な再生力によって元に戻る。しかし、痛みはある。すぐに再生するといっても、痛みは人間と同じように感じるのだ。
 ゾルテの身体には大量の蟲が群がっていた。黒い蟲が蠢いている。振り払っても、振り払っても、すぐにゾルテの身体を覆ってしまい、やがてゾルテは振り払うことを止めた。
 蟲はゾルテの肉を喰らい、内臓を喰らう。それでもゾルテは死ぬことなく、ただ苦痛に耐えるのみであった。
 底なしの沼から次々と黒い触手が現れ、それはゾルテの行く手を塞いだ。黒い触手は十メートル以上の長さがあり、太さは一メートルほどだった。天を貫く先端には楕円の穴があり、そこにはギザギザした歯が並んでいる。
 黒い触手に囲まれたゾルテは大きく両腕を広げた。
「滅す!」
 ゾルテの言葉とともに轟々と黒い風が巻き起こり、黒い触手が沼から引き抜かれ、ゾルテの周りで竜巻となって回った。
 回り続ける黒い触手は身体を引き千切られ、黒と赤の破片が上空に舞い上がり、地面に落ちた。
「余を誰と心得る! このような空間に閉じ込めおって、許さぬぞ、決して許さぬ!」
 ゾルテは炎で身を焦がしながら飛び続けた。
 どこまでもどこまでも広がる空間。果てなどあるのだろうか?
 沼から時折、炎が吹き上げ、遥か遠くからは呻き声が聞こえてくる。
 陽の光はなく、人間ならば凍え死ぬ寒さがゾルテを襲う。
 天などないのに天から煌く星が降り注いでくる。
 針に覆われた幾つもの星がゾルテに直撃する。ゾルテは避けることをしなかった。数の多さから避けられないことは判りきっていたし、避ける気すら起きなかった。
 ゾルテは傷つき、大量の血を流す。身体に取り付いた蟲たちもいる。これでは再生のスピードも遅くなっていく。ゾルテは骨になろうとも、空を飛翔し続けた。
 多くの血を失ったことで、ゾルテは急激な渇きに襲われる。しかし、ここには聖水[エイース]などなく、永遠に渇欲が付きまとい、喉を掻き毟りたくなる。
 そして、ついにゾルテは壁に到達した。
 光り輝く門が見える。その傍らには何者かが立っていた。
 ゾルレはすぐさま門に近づき、そこいる者を見定めた。
 門の傍らにいたのは女性であった。女性と言っても、姿は人ではなかった。
 上半身は女体であったが、下半身は鱗に覆われて醜く、とぐろを巻いたそれはまさに蛇そのものであった。
 ゾルテはこの者は何者なのかと訝った。
「凄惨な姿をした異形の者よ、貴様は何者だ。門番ならば余に道を開けよ、さもなくば灰と化して塵となる運命を負うことになるぞ!」
 大胆な態度でゾルテは異形の者に詰め寄るが、異形者とて負けじと冷然たる態度でゾルテを睨みつけた。
「何人たりともこの門をお通しするわけにはいきません――ルシエ」
 いと高き楽園[アクエ]にいた頃のゾルテの名――それがルシエ。
「なぜ余の名を知っている!?」
「まさか、貴方までもがここに投獄されようとは思いもしませんでした。わたくしをお忘れですかルシエ。無理もありません、今のわたくしはこんなにも醜い姿に成り果ててしまいました」
「まさか、貴女は!」
 異形の者の微笑みは崇高さを感じさせた。