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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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堕とされしものたち 機械仕掛けの神

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 夏凛に意見を求められるように視線を向けられたファリスは、口いっぱいに詰め込んでいたクッキーを紅茶で流し込んで、息を吐いた。
「そのユニコーン社にあたしと夏凛で殴り込みに行きたいんだけど?」
「実際に行くのはアタシひとりでいい。ファリスはここにいた方が安全だから。そーゆーわけでぇ、アリスちゃんにファリスの面倒を見てもらいたいんだけどぉ?」
「よろしいですよ」
 ニッコリと微笑んだアリスだったが、ファリスは椅子から立ち上がって大きな声を出した。
「あたしも行く!」
「足手まといになるだけ」
 さらっと言った夏凛にファリスは少し頭に来た。自分が足手まといになることはわかっているが、それでも一緒に連れて行って欲しかった。
「あたしも行くの!」
「だ〜か〜ら〜、足手まといになるって言ってるでしょ〜。アナタに何ができるの、言えるものなら言ってみて」
「……行ってみなくちゃわからないよ」
 行ってみなくてもファリスにはわかっていた。自分には何もできない。最悪、殺されてお仕舞いだろう。それでも、行きたかった。
 困った表情をしているファリスを見て夏凛が嘲笑う。
「ほら、そんなことじゃ足手まといになるだけ。だから、ここにいるのが一番なの。マナちゃんは留守だけど、アリスちゃんも強いから、どんな敵が来てもへっちゃらだし」
「私を頼られても困ります。主人[マスター]の屋敷で敵と戦うわけにはいきません」
 アリスは魔導師によって造られた戦闘兵器であり、その実力は計り知れない。そのことを知っているからこそ、夏凛はファリスをここに置いて行こうとしたのだ。
「この屋敷が全壊することになっても、アタシからマナちゃんにちゃんと話しするから平気平気だから、敵が来たらコンテンパンにしちゃってね」
 席を立ってどこかに行こうとする夏凛をファリスが呼び止めた。
「待って、ホントにひとりで行っちゃうの?」
「当たり前でしょ。アタシとアナタじゃ住む世界が違う。アナタは普通の人間でも、アタシは違うから、だから敵と戦える」
「でも! あたしが行かないと意味がないの。そうしないと、一生後悔すると思う」
「死んでもいいなら来てもいいよ――でも、アタシは思う。刺し違えて復讐するなんてバカじゃない? アタシはアタシのために生きてるから、刺し違えるなんてしないの。死んだら楽しいことも悲しいことも味わえなくなるからね」
 夏凛の話を聞き終えたファリスは席を立って反論を唱えた。
「それは違うよ。死んでもやらなきゃいけないことってあるの。死んだ〈ホーム〉の人たちのためにも、あたし自信が何かをしなくちゃいけない」
「あっそ、死んだ人のことなんてアタシにはカンケーないね。アタシはアタシのために生きてるって言ったでしょ?」
「でも、〈ホーム〉を奪われて住むところがなくなちゃった人が、この都市のどこかにいるから……その人たちのためにも……」
「アタシだったら死んで誰かのために何かを果たすくらいなら、自分のために生きるね」
「なんで!? 違うの……だから……」
 ファリスは泣きそうな表情になり、何を言ったらいいのかわからなくなった。夏凛と自分が思っていることは違う。でも、自分の気持ちを夏凛にもわかって欲しい。それなのに夏凛は否定ばかりする。
 泣くつもりなどないのに涙が零れてきたファリスに、アリスがそっとハンカチを手渡してくれた。
「私にはどちらが仰る意見が正しいのか判断しかねますが、夏凛様がついて来てもいいと仰りました。夏凛様と意見が合わなくとも、夏凛様はファリス様にチャンスは下さった。あとはファリス様の判断次第ではないでしょうか?」
頷いたファリスは夏凛を見つめた。それを見た夏凛は薄く笑い椅子を指差した。
「じゃあ、なるべく死なないように準備しなきゃね。アリスちゃん、ファリスでも使える魔導具をチョイスして」
「承りました」
 アリスはお辞儀をして部屋を出て行った。
 夏凛は椅子に再び座り、ファリスも椅子に腰掛ける。
 ティーポットから空いた二人分のカップに夏凛が紅茶を注ぐ。
「え〜と、ファリスの分の魔導具の料金は給料から引くからね。そうすると等分の間ただ働きになるけどいい?」
「うん、食事と寝るところさえあればいい。それだけあれば給料なんて別にいいよ」
「じゃあ、一生ウチでただ働き」
「それは嫌」
「ワガママだなぁ〜」
 夏凛は笑うと、息を天に向かって吐いた。これからしばらくの間、ファリスと暮らすのかと思うと、とてもおもしろい気がした。そして、一緒に暮らすのであれば、あの話もしなくてはいけないと思い、夏凛は急に真剣な顔になった。
「話して置きたいことがある」
「何を?」
「キメラ生物って知ってる?」
「なんとなくだけど」
 ファリスの認識でのキメラ生物は怪物でしかない。
 夏凛はファリスの顔を見つめて黙り込んだ。そして、しばらくしてため息を吐き出すように言葉を吐き出した。
「あんな物と一緒にされるのは侵害だけど、アタシもそんなもん。ある魔導師に魔導手術の実験台に無理やりされて、悪魔と呼ばれる存在の力を得たの。それに加えて、あのクソ魔導師はアタシの身体を男にしたの、信じられる? そっちの方が性格に合ってるなんて言って……」
「えっ、どういうこと……?」
 ファリスはいつか夏凛が言っていた『アタシは人間じゃない』という言葉を思い出す。だが、ファリスにはいまいち理解ができなかった。
「だから、アタシに向かって?男?って今後一切言わないでね。知らない人に言われたら、笑って済ますけど、知ったアナタに言われたらキレるから、覚えて置くよ〜に。質問は一切受け付けないからね、今後これについて話をするかはアタシ次第」
「でも、どうして男に?」
「だから質問は受け付けないって言ったでしょ」
「……わかった」
 口ではわかった言いながらも、聞きたいことは山ほどある。
 夏凛は何かを思い出したように手を叩いた。
「そうだ、あとアタシに能力についても少しだけ教えといてあげる。アタシの能力は身体の硬質化させることと重さを自由に変えること。あの時ビルから飛び降りた時には身体を硬質化させたの。普段は自分ひとりだったら身体の重さをゼロに近くするんだけどね、硬質化にも限界があるから。他にもいろいろあるけど、企業秘密。あっ、そうだ、それから、もう一つ大事なことがあるんだけど、他言しないと誓って」
「えっ、うん、誓う」
「ホントにぃ?」
「誓うよ」
「満月の晩には普通の女の子になるの、これはアタシの最大のヒミツ。この時に敵に襲われたら堪ったもんじゃないからね。絶対他言しないでよ、したら殺すからね」
 殺すと言うのは本気であった。この秘密が多くの敵に知られでもしたら、夏凛の命がいくらあっても足りないだろう。夏凛は自分の命に関わる話をファリスにしたのだ。
 ファリスにも夏凛が自分に話してくれた秘密の重みがわかった。それとともに、その話を自分にしてくれたことが嬉しかった。
 しばらくしてアリスが一つの木箱を持って現れた。
「こんな物しかありませんでした」