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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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堕とされしものたち 機械仕掛けの神

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「そんな、どうして? 夏凛なら仕事のトラブルとかでわかるけど、あたしが何で?」
「あのボーイに化けてた奴はファリスを捕まえて、アタシに動くなって言ったでしょ? アタシを殺すなら動くなって言う前に銃で撃っただろうし、あいつはファリスに銃を向けずにアタシに銃を向けた。アタシに用があってファリスを人質に取るなら、ファリスに銃を向けるでしょ。だから、たぶん用があったのはアタシじゃなくてアナタだと思う。勘だけどね」
 ファリスが狙われたのかもしれないが、理由が思い当たらない。
「狙われるような覚えないよ」
「本当に?」
「ないって、夏凛が狙われたんだよ」
「まぁ、どっちでもいいや。それよりも、これからどうするかが問題。ホテルに泊まっているのがバレるくらいだし、しかもボーイに変装して襲撃に、男たちが持っていた銃はいい代物だった。それなりの組織に狙われちゃってるのかもね。そーなると、ここがバレるのも時間の問題ってことになるね。最近の偵察衛星って高性能でイヤになっちゃう」
「じゃあ、早く逃げなきゃ」
「どこに?」
 それを問われてファリスは黙り込む。ファリスには行くところもなければ、頼る人もいない。強いて言えば目の前にいる夏凛くらいが頼れる人だった。
 ファリスが返事を返さないのを見て夏凛が口を開く。
「逃げ込む場所の候補はいろいろあるけど、その人たちにあまり迷惑かけたくないし、逃げ隠れしていてもダメ。アタシなら敵を完膚なきまでにやっつける」
 悪戯な笑みを浮かべた夏凛は立ち上がった。ファリスもそれにつられて立ち上がる。
「どこに行くの?」
「まずは電話。ケータイホテルに置いてきちゃった。で、財布も置いてきちゃったから、お金の調達をして、服を買う」
「はっ?」
 ファリスはこんな事態に、と思った。
「何か疑問でもあるなら受け付けるよ」
「服なんか別にいいじゃん」
「レディーの嗜み」
「夏凛って男でしょ?」
「それについてもそのうち詳しく話す」
 そういえばと思い、ファリスの頭にある言葉が思い出される。あの時は動揺していて聞き違えだったかもしれないが『アタシは人間じゃない』と夏凛が言ったような気がする。もしや――。
「夏凛ってアンドロイド!?」
「はぁ、何言ってるの? そんなこと言ってないで早く行くよ」
 夏凛は呆れ顔をしながら歩いて行ってしまった。ファリスは慌てて夏凛の背中を追った。
 人々が傘を差す中、二人は雨に濡れながら街中を歩いた。追っ手が来ているようすはないが、油断は許されない。
 ファリスは再びこの質問を投げかけた。
「どこに行くの?」
「だから、電話を掛けられるところ探してるんだけど。や〜めた、電話じゃなくてタクシーに乗る」
「お金ないんでしょ?」
「あとで払えば済むから大丈夫」
 夏凛は道路に出てタクシーを止めた。
 びしょ濡れの二人を見て運転手は嫌な顔をしたが、相手が夏凛だとわかり態度を変えた。
「夏凛さんですよね?」
「うん、そうだよ。今はお金持ってないんだけどぉ、着いたら払うから乗せて」
「いいですよ、どうぞ乗って下さい」
 びしょびしょの二人が後部座席に座ると、シートもびしょびしょになったが、運転手は嫌な顔ひとつしなかった。
「雨の中大変でしたね、タクシーの中なら濡れなくて済みますよ、当たり前ですけどね」
 声を出して笑う運転手に合わせて夏凛も楽しそうに笑って見せた。横にいるファリスは夏凛の二面性を見て苦笑いをした。
 二人を乗せたタクシーは大きな洋館の前で止まった。
 絢爛豪華な装飾の施されたバロック建築の屋敷。この辺りでは有名な屋敷だ。特に魔導に関するものならばよく知っている場所だ。
 タクシーを鉄門の前に待たせた夏凛はファリスとともに屋敷の敷地内に足を踏み入れた。
 蔓の生い茂った鉄格子の門を潜るとそこには、白い女神の石像の置いてある噴水に出る。この噴水の水は聖水であり、魔物や悪魔などの類をこの一帯に寄せ付けない魔除けの力を持つ。
 夏凛はこの噴水の横を通る時、いつもなぜか気分が悪くなる。
 足早に夏凛は噴水の横を通り抜け、屋敷の玄関まで辿り着き、呼び鈴を鳴らした。
「マナちゃんいるぅ〜?」
 しばらく待ったが返事がない。
 この洋館の主人は海外に出かけることが多く、家を空けることが多い。今も外出中なのかもしれない。
 ややあって、扉が軋む音を立てながら開き、蝋燭を手に持った小柄な少女が現れた。
 少女はゴシック調の黒いドレスに身を包み、長く美しい金髪を腰まで垂らし、蒼く透き通る瞳を上目遣いにしながら夏凛をまじまじと見つめていた。
「夏凛様、こんにちは。何用でございましょうか?」
「アリスちゃん、お金貸してぇ〜」
 機械人形アリス――。機械仕掛けである彼女は自称超美人天才魔導士マナの自宅である洋館に住み込んでいるメイドのような存在である。
「御話は中でお伺い致します。どうぞ中へ御上がり下さい」
 胸に手を当て軽く会釈をしながらアリスはもう片方の手で夏凛を洋館の中へと招き入れた。だが、夏凛は屋敷の中に入ろうとしないで、遠く道路を指差した。
「お金ないのにタクシーに乗っちゃったの。だから、立て替えて置いて」
「承りました。夏凛様はいつもの部屋でお待ちになっていてください。コード000――20パーセント限定解除。コード002――〈シールド〉召喚[コール]」
 光り輝く〈シールド〉を傘代わりにしてアリスは鉄門へと向かって行った。それを見送った夏凛は屋敷の中に入り、ファリスもその後に続いた。
 屋敷の中はシャンデリアによって煌びやかに照らされ、玄関ホールは天上が高く、目の前には上る箇所が双方にある階段が交差しながら二階へと伸びている。下を見ると華をモチーフにした昏い色の絨毯が敷き詰められている。
 夏凛はここに何度も来ているようすで、広い屋敷の中を迷うことなく進んでいく。
 長い廊下を抜け、客間についた夏凛はソファーに座った。ファリスはソファーには座らず、部屋に置いてある調度品や高級そうな置物を眺めていた。
 しばらくして、アリスが二着の洋服と大き目のタオルを持って現れた。
「ひとまずこのご洋服にお着替えになられてください。すぐに服を洗って乾燥してまいります」
 アリスに着替えとタオルを渡されたファリスは夏凛の顔を睨んだ。
「あっち行って、絶対こっち見ちゃダメだからね」
「別にファリスの裸なんて見たくないから平気。見るんだったら、もっと可愛い娘[コ]かカッコイイ男の人じゃないとぉ」
 少しにやけた夏凛にファリスの投げたタオルが直撃する。
「早く向こう行け、変態!」
「変態とは失礼な」
 夏凛は怒って部屋を出て行った。

 乾燥機によって乾いた服に着替え終え、テーブルに着いてお菓子と紅茶を飲みながら、夏凛とファリスはアリスにことのあらましをざっと話し終えた。
 アリスは深く頷いた。
「主人[マスター]が外出中なので、私がお金を工面いたしましょう。それで、これからどうなさるおつもりでしょうか?」
 出された紅茶を飲みながら、夏凛は宙を仰いだ後に答えた。
「ファリスを狙った相手についてははっきりとわからないから保留。今は昨日の借りを返しにユニコーン社に行ってみるつもり」