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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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堕とされしものたち 機械仕掛けの神

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「あ、あれってなに? 〈裁きの門〉って、太古の魔導書に載ってるやつ?」
「この地上が牢獄であるのならば、〈裁きの門〉の先にある世界は地獄だ」
 側面的には脅えを見えていないものの、鴉の精神は〈裁きの門〉に明らかな畏怖を感じていた。そして、夏凛に内いる?モノ?も〈裁きの門〉に酷く脅えている。
 鴉たちが見る中で、ゾルテの身体から槍が抜かれたが、ゾルテの身体は地面に落ちることなく緩やかなに天へと上がっていく。
「嫌だ、余はあそこだけにはいきたくない! 止めろ、止めてくれ!」
 必死に叫び、ゾルテは身体を動かそうとするが、彼の身体は見えない鎖によって拘束され、逃れることは許されなかった。
 ゾルテからはかつての覇気は消えうせていた。
 重々しい音を立てながら〈裁きの門〉が口を開く。
 鼻を突く死臭が冷たい風に乗って恐怖を運び、開かれた門の先には闇しかなかった。しかし、確かにその先で何かが蠢いている。
 フィンフは恐怖に顔を引き攣らせたゾルテに最期の言葉を捧げた。
「いつの日か救世主[メシア]が解き放ってくれましょう」
 天に昇る黒い影。
 夏凛は酷い吐き気に見舞われ、足が大きく震えて地面にしゃがみ込んだ。
 鴉の表情も険しかったが、彼は夏凛の身体を抱えて足早にこの場から立ち去ろうとした。
 この場にいた人々が天から目を放すことも許されなくなっているなか、鴉と夏凛はゾルテが裁かれる前に逃げるように歩き出した。
 天は怒り、雷光を地面に落し、人々は脅え、天に畏怖する。
 一部始終を遠くから眺めていた天人[ソエル]は微笑んでいた。怒り狂う天を見ながら笑っていた。
「ゾルテが囚われるとは誤算だ。代わりを探さねばならん、やはり彼が適任か……」
 この者から発せられた声は若々しく、まるで春の小川がせせらいでいるようである。それは?リリス?と通信をしていた時よりも柔らかな口調だった。
 純白に輝く翼を持つ堕天者[ラエル]は天を仰ぎ、そして、口元を歪ませた。
 彼が天を仰いでいると、白い影が近づいて来た。
「来ていたのですね、ツェーン」
「お久しぶりだねフィンフ。せっかく加勢に来たのに、貴女には必要のないことだった」
 それがツェーンにとっての誤算であった。政府組織ヴァーツの中で自分が一番初めにゾルテの前に現れなければならなかった。
 例え強固な城壁を築こうと、城の中に反逆者がいたのでは意味のないことだった。

 最新型の電化製品を見渡しながら、ファリスはダイニングの大きなソファーに腰を下ろした。
 することがない。ひとり留守番を任されてもファリスにはすることがなかった。
 ファリスはソファーの上に横になりながら天井を見つめた。
「はあ……」
 ため息が出た。
 ソファーの感触はとてもふかふかしていて、ファリスが使っていたベッドよりも断然いいものだった。そのことでファリスは少し腹が立った。
 夏凛のことは嫌いではないけど、なぜか腹が立つ。
 部屋の中は静かだった。何も音がしない。それがファリスにとっては寂しく感じた。
 窓の外に見える曇り雲もファリスの気持ちを憂鬱なものにする。
 少しでも気分を紛らわせようと、ファリスはテーブルの上に置いてあったリモコンに手を伸ばした。
 テレビの電源が入り、巨大な液晶画面に映像が映し出される。
 チャンネルを適当に回し、ファリスはすぐにテレビの電源を切った。
 おもしろいとかつまらないとかいう問題の前に、ファリスはすることがないのではなく、何もする気がしなかった。
 テレビを消してしまうと部屋は静かな空間に戻ってしまった。
 テレビリモコンの横にはオーディオ機器のリモコンもあった。ファリスはとりあえずプレイボタンを押してみる。すると、部屋中に取り付けられたスピーカーからけたたましいハードロックが流れはじめた。
 ファリスはこういう曲は嫌いではなかったけど、今は耳障りにしか聞こえなかった。けれど、もう停止させるのもめんどうだった。
 ゆっくりと目を閉じたファリスは全身の力を抜く。身体が重く、すごく疲れたような気がする。何もかも突然に起こりすぎた。
 生まれ育った〈ホーム〉を失い、小さな家だったけど愛着のあった自分たちの家を失い、この世で一番近くにいてくれたひとも失ってしまった。
 ファリスは失って困るものはないような気がした。けれど、死にたくない。別に命が惜しいわけではなく、悔しくて死ねない。自分から〈ホーム〉を奪った奴らが憎い。
 しばらく目を閉じて考え事をしていたファリスは急に立ち上がった。特に何かをしようと思ったわけではない。ただ、じっとしていられなかった。
 ベランダに続く窓にファリスは手を押し付けた。
 空は灰色の雲に覆われ、ファリスの目で見る巨大都市エデンは倦怠な雰囲気を醸し出していた。
 雷光が雲の上を走った。
 激しい稲光。防音工事がされているので音は聞こえないが、だいぶ激しい雷だ。
 まるで空が怒っているように連続した雷が起こり、地面に雷光が落ちる。
 土砂降りの雨が降ってきた。強い風も吹き荒れ、雨粒がファリスの目の前の窓を濡らす。
 出かけた二人は大丈夫だろうかと、ファリスはふと思って再びソファーに腰を下ろす。
 まだ、二人は帰って来ない。
 早く帰って来て欲しいとファリスは心から願った。ひとりは嫌だった。誰もいいから側にいて欲しい。
 ファリスがすることもなく部屋を見渡していると、玄関の開く音が聞こえたような気がした。
 二人が帰って来たと思ったファリスは逸る気持ちが抑えられず、玄関に急いで向かった。
 玄関に立つ人影は一つだった。ファリスにとって見覚えのある人影。怒りが湧いてくるが、それよりも恐ろしさが優り、ファリスは身動き一つできなくなってしまった。
 人影はおぞましい笑みを浮かべていた。
 息を呑み込んだファリスは喉の奥から声を絞り出した。
「どうして……!?」
「ガハハハハ、どうしてだと?」
 高笑いをする大柄の男はまさしくハイデガーだった。
「俺が死んだとでも思っていたのか? 重症を負いはしたが、この俺に死などあり得んのだ。わかるか、わかるか愚かなノエル!」
「なんで、ここに……!?」
 きっと、自分ではなく鴉に関係あるのだろうとファリスは思った。けれど、その鴉は今ここにはいない。
 足を震わせるがファリスは逃げられなかった。逃げたいという気持ちはあるが、足が動いてくれない。
 巨大な手がファリスの首を掴んだ。ファリスは巨大な手を必死に振り払おうとするが、全く歯が立たない。
「は……なして……」
「どうやら鴉はいないようだな。残念だ、残念だ……。だが、それもおもしろい」
 ハイデガーはファリスの身体を壁に押し飛ばした。
「げほっ、げほっ……」
 床に尻をついたファリスは咳き込みながらハイデガーを睨付けた。
 立ち向かっても勝ち目はない。ならば逃げるしかない。ファリスは部屋の奥に全力で走った。
 必死に逃げようとするファリスとは対照的に、ハイデガーの動きはゆったりとしていた。
 逃げ場は部屋の奥しか残っていなかった。しかし、それ以上の逃げ場はない。そのために、ハイデガーは余裕の笑みを浮かべてファリスとの距離を縮めていく。