第八章 交響曲の旋律と
沈黙を破るように、シャオリエが言った。そして、イーレオの耳元に口を寄せる。
「昔みたいに、子守唄を歌ってあげましょうか?」
アーモンド型の瞳を細め、楽しそうに彼女は口の端を上げた。
からかわれているのは承知で、イーレオは、くすりと笑う。昔の彼女も、今の彼女も、たいそうな美声の持ち主だが、惜しいことに音感には恵まれていない。
それでも子供のころは、よくそれで寝かしつけられた。調子っぱずれな歌でも、繋いだ手が温かかったから。
「なかなか魅力的な申し出ですが、遠慮します。さすがにもう、子供じゃありませんから」
「そう? 残念ね」
彼女は、やや不満顔だが、本当は分かっている。そばに居ることこそが、何よりも心地よい子守唄なのだと。
イーレオがそっと目を閉じ、シャオリエが寄り添う。
彼の肩を包む、彼女のぬくもり。彼を守り育ててくれた大切な人。
そして雨が、子守唄を歌う――。
作品名:第八章 交響曲の旋律と 作家名:NaN