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第八章 交響曲の旋律と

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「彼は、僕の異母姉を凶賊(ダリジィン)に売りました。先妻の娘だからと、日頃から何かと異母姉を目の敵(かたき)にしていたんです。……僕はね、小さなころから異母姉に守られてきたんですよ。だから、彼女に害をなす者は決して許しません。異母姉に対する償いとして、伯父には出ていってもらいます」
 怒りの炎を宿した瞳にハオリュウの本気を感じ、コウレンは「分かった」と頷いた。
「では、藤咲コウレンの妻である、お前の母はどうする? 身近な者ほど感づきやすいだろう?」
「母は……。……体を悪くしています。別荘で養生させましょう」
「ふむ。なら、お前が大切にしている異母姉はどうする気だ?」
 コウレンが、心持ち意地悪く問いかけた。
「鷹刀ルイフォンに渡せばいいでしょう?」
「ほぅ? お前は、異母姉を凶賊(ダリジィン)に売った伯父を許さないくせに、あの若造にならやってもよいと?」
 コウレンの揶揄するような口ぶりに、ハオリュウは悔しげに「くっ」と息を漏らす。
「仕方ないでしょう! 認めたくはありませんが、姉様はあの男がいいと言っているんです」
 ハオリュウは、こほんと咳払いをした。思わず出てしまった本音を取り繕うような――相手がそう信じ込むような、絶妙な間合いを計る。
「――僕と異母姉は仲が良いですが、藤咲家の跡継ぎという意味では、彼女は僕の敵になります。彼女が望まなくとも、彼女の夫となった者が当主の座を狙うことがあり得ます。だから、外に出してしまうのが一番なんですよ。……僕は、異母姉には幸せになってもらいたい」
 嘘で塗り固めたハオリュウの言葉の中で、それだけは心からの真実だった。
「だから『あなた』は、これから異母姉とルイフォンを呼び出して、ふたりの仲を認めると言ってやってください」
 ハオリュウは、ぎゅっと拳を握りしめた。奥歯を噛み締め、ただ異母姉のために祈る。汚いことは全部、自分の役目。異母姉は何も知らずに綺麗でいてほしい……。
 異母姉への切なる思いでいっぱいのハオリュウに、コウレンの無粋な声が割り込んだ。
「儂(わし)は〈蝿(ムスカ)〉という男に、鷹刀イーレオをひとりで呼び出すよう命じられている。その件は……」
「今更、そんな約束に従う義理はないでしょう!」
 噛み付くようなハオリュウの返事に、コウレンが呆気にとられたように瞬きをした。
「あ、いえ。失礼」
 ハオリュウは冷静さを取り戻し、コウレン――の姿をした、厳月家の当主の〈影〉――と正面から向き合った。
「取り引きは成立、ということでよろしいでしょうか?」
 薄い笑いを浮かべ、ハオリュウが最終確認をする。
「よし、それで手を打ってやろう」
「では、これは『あなた』のものです」
 そう言って、ハオリュウは金色の指輪の入った小箱を差し出した。


作品名:第八章 交響曲の旋律と 作家名:NaN