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第八章 交響曲の旋律と

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 厳月家、とシャオリエが口にした瞬間、コウレンの顔が強張った。その変化を、シャオリエは、しかと捕らえていた。
「三番目の坊ちゃまなんですけどね、昨日の晩も来てくださいましたの」
 コウレンは声もなく、シャオリエの顔を見つめている。その様子を楽しみ、真綿で首を絞めるように、彼女はゆっくりと言葉を紡いでいく。
「彼、近々ご婚約なさるんですって」
 コウレンは反射的に後ずさった。しかし、彼の背は柔らかな枕に抑えられていた。
 不意に、シャオリエはベッドのそばにいるメイシアに視線を移す。アーモンド型の瞳が薄く瞬(またた)き、メイシアに何かを訴える。
 メイシアは肌にぴりりとした緊張を覚えた。そのシャオリエの顔には見覚えがあった。店で初めて会ったとき、メイシアに情報を与え、どう組み立てるかと尋ねたときの顔だった。
 神経を研ぎ澄まし、メイシアはシャオリエの次の言葉を待った。
「厳月家の坊っちゃまのお相手は、藤咲家のご息女、メイシア嬢だそうよ」
 ――言葉の一石が、静かに落とされた。
 それは波紋を描きながら部屋中に広がっていき、空気を揺らしながら、皆の顔に明暗を作り出す。
「シャオリエ、それは親父さんが囚われて、立ち消えた話だろう?」
 何故、場を混乱させるようなことを言うのだ、とばかりに、ルイフォンが苛立ちの声を上げた。
「待って、ルイフォン。『昨日の晩』って……」
 混乱する頭を、メイシアは必死に働かせる。
 シャオリエは、彼女の知っている事実しか言わない人だ。少なくとも前に話したときは、確かな情報だけで問いかけ、メイシアに判断を委ねた。
 勿論、厳月家の三男が古い情報に踊らされているだけかもしれない。けれど、ずっと感じている父への違和感がメイシアに口を開かせた。
「お父様……、何かご存知なのではないですか? 斑目の別荘で何があったのでしょうか……?」


作品名:第八章 交響曲の旋律と 作家名:NaN