小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

オヤジ達の白球 36~40話

INDEX|3ページ/14ページ|

次のページ前のページ
 


 前もって決めたサインは3種類。
指一本のときは、いちばん早い球。2本の時は2番目に早い球。
3本の時は、3番目に早い球。
練習を始めたばかりの投手に、変化球を投げろと言うのは無理がある。
内外角ぎりぎりのストライクゾーンを狙えというのは、もっと無理がある。

 ど真ん中でもかまわない。球速を変えて、打者の目をくらましていこう。
それが試合開始の直前、坂上と寅吉が考え出した作戦だ。
しかし。練習をはじめてまだ2ヶ月足らずの投手に、そんな芸当が
出来るはずがない。
ボールを握りしめひたすらに捕手のミットをめがけ、投げるだけで精一杯だ。

 (テレビで見たことがあるんだ。
 捕手が、股の間でサインを出すだろう。そいつに投手が首を振る。
 もういちど捕手がサインを出す。それにも投手が首を振る。
 3回目のサインが出る。それでようやく投手も合意する。
 そういうのにあこがれているんだ。
 たのむ。だからサインは、必ず3回出してくれ)

 (こだわっている部分が、あまりにもトンチンカン過ぎるな・・・)

 そう思った。しかし無下に却下するわけにもいかない。
「わかった。サインはかならず3回出す。
だから俺のミットをめがけて、思い切り投げこんでこい」
そう答えて寅吉は、坂上をマウンドへ送り出した。

 スピードの乗った、手ごたえのある1球目がやって来た。
(おっ、何とかなるかもしれねぇな。
約束通り、あいつと決めたサインを3回出すか)
2球目のサイン交換が終わる。
ふたたび真ん中に構えた寅吉のミットをめがけて、坂上の早い球がやって来た。
ズドンと音を立て、ふたたび寅吉のミットへボールが収まる。

 「ストライク~、ツウ!」

 打者のバットは、2球とも、ピクリとも動かない。
「おい。どうした?。打っていいんだぜ。別に俺に遠慮なんかしないで」
寅吉がマスク越しに、1番バッターを見上げる。

 「あっ・・・
 球速はそこそこですが、なんだかちょっと気になることがあって・・・」

 と1番バッタが、口を濁す。

 (気になることがある?。なんだいったい・・・
 何が有るんだ、あいつの投球に?)
寅吉が小首をかしげる。そのとき主審の千佳も、小さな声でつぶやく。

 「そうよね。1番バッター君のいう通り、放っておけませんねぇ。
 このままじゃあとで大変なことになります」

 

 (37)へつづく