オヤジ達の白球 36~40話
「バットを振らずに押し出しの先制点か。いいじゃないか、そういう展開も」
「いいんですか、そんなことで。呑気なことを言わないでください先輩。
このままじゃ、試合になりません」
「あいつの足の踏みかたを元に戻せば、さっきまでの球がよみがえる。
だがそれじゃ、違反投球になる。
辛抱のしどころだ。長い目で見れば結果的に、あいつのためになる」
「しかし。このままじゃ何時まで経っても、ストライクはきませんよ」
「心配しなくてもいいさ。2点でも3点でも好きなだけくれてやる。
見ろよ。ウチのベンチに動く気配はまったくない。
ということはあいつが立ち直るのを、辛抱強く待つつもりだ」
4球連続のボールがつづく。
球審が「四球です。バッターは1塁へ」とうながす。
3塁から走者が生還してくる。
つづいて打席へ入った6番打者も同じように、1度もバットを振らない。
振りたくてもストライクゾーンへ、ボールがやってこないからだ。
力のない球がストライクゾーンをはるかに外れる。
四球続けてぽとりと地面へ落ちる。
2点目の走者が3塁から戻って来る。
7番バッターも、おなじく四球を選ぶ。
3塁からゆっくりとした足取りで、3点目の走者が帰って来る。
8番バッターが打席へ入る。
(ベンチはまだ坂上を投げさせるつもりなのかな?)
寅吉が自軍のベンチを振りかえる。
陽子がスコアブックへ、屈辱の3点目をかき込んでいる。
(機嫌悪そうだな、姐ごは。
そりゃそうだ。連続の四球で敵につぎつぎ点を献上してんだ。
笑顔でスコアをつけている場合じゃない。
こんな状態がつづいているというのに、ウチの監督ときたら
まったく動きそうもないな・・・)
作品名:オヤジ達の白球 36~40話 作家名:落合順平