オヤジ達の白球 36~40話
腕組したままの祐介に、動く気配はまったくない。
(見捨てているわけじゃねぇ。
自分で招いた窮地は、自分でなんとかしろということか)
そうだよな。ピンチは何度でもやって来る。
それを乗り越えながら選手は育っていくんだ。
寅吉がふわりとした球を坂上へ返す。
ボールを受け取ったが坂上、ほっと深い溜息を吐く。
(しかたねぇな。
ベンチが動かねぇというのなら、俺のほうから動くとするか・・・
今日はこのあたりで勘弁してやろう。ぼちぼち退場といくか)
坂上がボールを持った右手を高々とあげる。
「タ~イム!。投手が交代します!」
坂上が投手の交代を宣言する。
「もう、これ以上、投げられません!」
ピッチャーズサークルの真ん中で、坂上がペコリと帽子をとる。
そのままスタスタと、球場の出口へ向かって歩き出す。
前代未聞の出来事だ。選手が自ら交代を口にするなど、聞いたことがない。
しかし。当の本人は球場の出口へたどり着いた後、もういちど
ペコリと頭を下げる。
そしてそのまま、球場から姿を消していく。
「どうなってんだよ、いったい全体・・・選手交代じゃねぇだろう、これは。
誰が見たって坂上の敵前逃亡じゃねぇか・・・
どうするんだ監督。このままじゃ試合をつづけることができないぜ」
「そのようですねぇ。どうやら予期しない事態が発生したようです。
どうします?。居酒屋チームの監督さん?」
千佳の涼しい目が、ドランカーズのベンチを振りかえる。
(41)へつづく
作品名:オヤジ達の白球 36~40話 作家名:落合順平