オヤジ達の白球 36~40話
しかし。自分の投げ方を見失っている坂上は、それどころではない。
頭の中は真っ白。心臓はさきほどから早鐘のように鳴っている。
額から、冷たい汗がたらりと流れ落ちてきた。
案の定。ぎくしゃくした動作から、元気を失った球を次から次へ投げてくる。
無理もない。坂上はこれまで足をそろえて投球動作を開始したことがない。
左足をプレートの後方へ置き、そこから勢いよく足を踏み出すことで
自分の投球スタイル作り上げてきた。
それが封じられたいま、坂上は自分の投げかたをかんぜんに見失っている。
2番バッターに、まったくストライクが入らない。
つづく3番バッターにも力のない投球がつづく。同じように四球をあたえる。
4番バッターにも四球をあたえてしまう。
1球もストライクが入らないまま、ついに満塁という大ピンチをむかえる。
「どうしたの、坂上君は?。
さっきまでの勢いはどうしたのさ。3人続けてストレートの四球だょ。
いったい何がどうしたんだろう・・・
あっ、足の置き方を変えたのか。
あいつ。さっきまで、左足をプレートの後方へ置いていたもの。
主審にプレートの踏み方を注意されてから、いっきにおかしくなったんだ。
でもさ。しかたないわよねぇ。ルール違反のステップのままじゃ」
スコアブックをつけていた陽子が
「どうやら限界のようですねぇ。坂上君もここまでかしら」と眉をしかめる。
(40)へつづく
オヤジ達の白球(40)投手交代
5番打者が打席へ入る。
市の大会でホームランを量産し続けている強打者だ。
しかし。制球に四苦八苦している坂上を相手に、バットを振る様子はない。
「どうしたのかな、おたくの投手は。さっきまでの元気はどこへ消えたのかな?。
まるで別人じゃないですか。
このままじゃまたストレートの四球になる。
ということは、労せず押し出しの先制点ということになりますが?」
5番バッターが寅吉の顔を覗き込む。
作品名:オヤジ達の白球 36~40話 作家名:落合順平