短編集45(過去作品)
そういえば、鏡で見た自分の顔と、少し違うように思う。鏡でしか自分の顔を確認できないので、その顔が印象に残っているが、どんな時でも無表情でしか鏡を見たことがなかった。今川面に写っている自分の顔も無表情なのだが、まるで別人のように思える。なぜなんだろう?
すべてをモノクロに飲み込む世界。それが凪という時間だ。毎日訪れるが、それは限られた時間。毎日少しずつ時間が変化しているはずだが、水沼氏の中ではすべてが一定、それだけ同じ時を繰り返しているのだろう。
もし毎日を繰り返していない時でも、凪の時間帯だけは繰り返しているように思える。それを破りに今ここに佇んでいるのだ。
そう感じながら、手から石が放たれた。
「ザッブーン」
音とともに顔を砕いて広がった波紋を水沼氏は見つめることができただろうか?
凪がゆっくりと、漆黒の闇に包まれていく……。
( 完 )
作品名:短編集45(過去作品) 作家名:森本晃次