炎の王妃【チャンヒビン】~月明かりに染まる蝶~・第二巻
大王大妃のこのときの言葉は、長く心に残った。オクチョンがこれより辿った道はけして平坦ではなかったが、常にこの大王大妃の言葉が彼女を支え続けたこともまた確かであった。
「いつか冬が終わり、春が来る。そなたをこのまま終わらせるつもりはないゆえ、時機を待て」
「はい、大王大妃さま」
オクチョンが微笑み返すのを見て、大王大妃は安堵したように頷いた。スンはこのまま今夜は泊まってゆくことになっている。彼は大王大妃を門前まで送ってゆくと連れなって出ていった。
褥は二人分の汗を吸い取り、しっとりと湿り気を帯びている。褥を擦ってでさえ快感を感じてしまう乳首は紅く腫れ尖り、かつてないほど敏感になっていた。
オクチョンはスンに背後から貫かれていた。
「うっ、ああっ、あぁ―」
スンと寝所に二人きりになって以来、もう幾度抱かれたかオクチョンには数え切れないほど二人は交わっていた。
外では烈しい雪が降っている。大王大妃が帰ってから降り始めた雪は、いつしか本降りになっていた。
後ろから覆い被さったスンがオクチョンの乳房を揉みしだく。スンがいきなり身体の向きを変え、二人の位置を入れ替えた。さっとオクチョンを抱き起こし、自分の上に乗せる。
オクチョンは両脚を大きく開き、スンの膝の上にまたがっている恰好だ。
「スン、こんな―」
初めてではないが、普段からあまりに淫らな気がして好きではない体勢である。スンもいつもならオクチョンが嫌がる体位を強制したりはしないのだが。
オクチョンが恥じらえば、スンが口の端を引き上げた。
「久しぶりなんだ、少しは愉しませてくれ。それに、今夜は乱れるオクチョンを見てみたい気分かな」
スンの美しい面がうっすらと汗ばんでいる。前髪の一部が乱れ、はらりと額にかかっているのも男の壮絶な色香を感じさせる。
―こんな綺麗な男(ひと)が私を好きだと言ってくれる。
オクチョンの心は甘い幸福で満たされた。たとえいつか自分の寿命が尽き、この世からいなくなるときが来ても、今夜のこの幸福な記憶があれば、幸せなまま逝けるとさえ思った。
ふいにズンと甘い衝撃が下半身を走り、オクチョンは艶の混じった声を上げた。
「ぁあっ」
スンが下から腰を突き上げたのだ。
「何を考えている? 俺に抱かれているときは俺のことだけを考えてくれ、オクチョン」
スンが不満げに口を尖らせるのを見て、オクチョンはクスリと笑った。
―まるで子どもみたい。
心の声が聞こえたかのように、スンが憮然と言った。
「今、笑ったな。よし、オクチョンがその気なら、俺にも考えがある」
スンがいきなり腰を使い始め、オクチョンは眼を見開いた。
「あ、止めて。これ以上、続けたら」
「続けたら?」
意地悪げに問われ、オクチョンは頬を上気させた。
「―身体が壊れてしまうわ」
壊れるどころではなかった。スンに翻弄され続けた身体は、今や乳房だけでなく秘められたあわいから隅々まであり得ないほど過敏になってしまっている。
大きな絶頂を何度も繰り返し、秘所は少し触れられただけで次の絶頂を迎えそうだ。
スンがまた下から勢いよく突き上げた。
「壊れれば良い」
「壊れたら、もうスンと一緒にはいられなくなっちゃう」
「いいや、オクチョン。俺はそなたが粉々に砕け散ったとしても、側から放さない。そなたがばらばらになったら、その欠片を拾い集めてやる。それで、また、そなたは俺とずっと一緒にいるんだ」
何という壮絶な愛だろう。そのときのスンの言葉はどこか狂気じみてすらいた。だが、オクチョンは次々に下半身を襲う甘い痺れに翻弄され、スンの科白の意味を理解するゆとりとさえなかった。
「う、うぅ」
スンが突き上げる度、オクチョンの華奢な裸身がのけぞり、珊瑚色の唇から色香の混じった声が花びらのように零れ落ちる。
その声は自分のもののようで、どこか別の見知らぬ女のもののようである。
「オクチョン、オクチョン」
スンはオクチョンの名を熱に浮かされたように呼びながら、何度も彼女の胎内で達った。オクチョンもまたスンの逞しい身体に両手を回して抱きつきながら、彼の放つ熱い体液を身体の奥深くで受け止めた。
それでも、オクチョンの胎内に挿入ったままのスンは、いっかな衰える風はない。
既に数度極めている身体はけだるく、胎内に入ったスンがわずかに動いただけでも鋭い快感を得ることができた。オクチョンの身体中が敏感になりすぎて、少しどこかに触れられただけでも快感を拾ってしまうのだ。
「あ―」
オクチョンが切なげに呻いた。
「どうした?」
意地悪い笑みでのぞき込まれ、オクチョンは眉根を寄せた。
「私、また」
「また達きそうなのか?」
オクチョンが恥ずかしがっているのを承知で、わざと言葉にする。
「スンの意地悪」
泣きそうになって言うと、スンが嬉しげに笑う。
「達けば良い。俺がしっかりと見ていてやるから」
「そんな恥ずかしすぎることを言わないで」
オクチョンは恨めしげな眼でスンを見た。
「堪らんな、その眼。オクチョン、もっと俺を見て、俺を見ながら達くんだ」
挿入ったままのスンがまた大きく硬くなる。息も出来ない苦悶に、オクチョンは喘いだ。何度も絶頂を経た秘所は刺激を与えられずとも、小さな痙攣を繰り返している。いわば、小さな絶頂を繰り返しているようなものだ。
そこをまた大きくかき混ぜられ、突き上げられたものだから堪らない。切なく震える媚壁を硬い彼自身で幾度もこすられ、オクチョンはこれまで味わったことがないほど大きな波に呑まれた。
「ぁ、ああーっ」
スンにまたがり彼の腰に両脚を絡めたまま、オクチョンは魚が跳ねるように背をのけぞらせた。
「オクチョン、俺を見て。名前を呼んでくれ」
「スン、スン、大好きよ」
「俺もだ、オクチョン。愛している」
言葉と共にスンも達し、熱い迸りがうねる媚壁に吸い込まれてゆく。それさえ刺激になり、オクチョンはあまりの快感に眼の前が白く染まった。
眼の前を無数の蝶たちが光の粉をまき散らしながら飛び盛る。虹色の蝶たちはやがて散り散りになって消えていった。
しばらく二人は抱き合ったまま微動だにしなかった。いかほどの刻が流れたのか、オクチョンは囁いた。
「何だか自分がバラバラになってしまったみたい」
あまりに声を上げたので、声が掠れている。我ながら思い出せば恥ずかしいほどの乱れ様だった。淫らな女だとスンに呆れられたのではないかと心配だ。
「そなたがバラバラになれば、俺が拾い集める。だから安心して何度でもバラバラになれ」
「何、それ」
オクチョンが小さく笑えば、スンが音を立てて唇を吸った。頭が下がり、チュッと今度は胸のふくらみに口づけられる。
「あっ」
まだ烈しい情事の残り火がくすぶっている身体は、わずかな刺激を加えられただけで反応を返す。それが面白いのか、スンは勃った乳首にしゃぶりつき吸い立てる。
「もう、駄目よ」
オクチョンが身をよじれば、余計にムキになるようで、空いた方の乳房は指痕がつくほど力を込めて揉みしだかれ、敏感になった突起を乳暈に押し込まれるように押され、時に指で弾かれた。
作品名:炎の王妃【チャンヒビン】~月明かりに染まる蝶~・第二巻 作家名:東 めぐみ