暦 ―こよみ―
神無月(三)披露パーティー
その朝は抜けるような青空だった。
フォーマルな装いに身を包んだ真中家の四人は、そろって家を出た。
電車を乗り継ぎ、一時間後には披露パーティー会場に着いた。こじんまりとした建物の中は、落ち着いた雰囲気に包まれていた。四人は控室に通されたが、一番乗りだったようでまだ誰も来ていない。
「ちょっと早すぎたかしら?」
「遅れるよりはいいさ」
「由紀子、お母さんのお支度お手伝いしてきたら?」
「そうね、ちょっと係の人に聞いてみるわ」
由紀子はスタッフの女性に案内されて、美沙子の控室に向かった。廊下の至る所に花や絵画が飾られ、華やかなムードを演出している。そして、新婦控室という金色に輝くプレートがかかったドアの前に立った。ノックをすると、中から美沙子の声が。
「どうぞ」
中に入ると、そこにはシックなドレス姿で髪を整えてもらっている美沙子がいた。
「あら、由紀子さん、今日はありがとう」
「お母さん、おめでとうございます。とてもお綺麗です」
「まあ、うれしいわ、プロの手を借りて着飾ってもらっているのだからいつもと違って当然よね。でもそう言ってもらえるとうれしいものだわ」
仕上げを終えた美容師が部屋を出て行き、由紀子と美沙子はふたりだけになった。
「由紀子さん、来月渡航したら、次に会えるのはあなたたちの結婚式になるのよね。その後もお正月くらいしか戻れないかもしれないわ。あ、でも赤ちゃんが生まれたら飛んできてしまうでしょうね」
「やだ、お母さん、まだずっと先のことです」
「あら、そんなことないわ、きっとすぐよ」
「ところで、黒木さんのあちらでのお仕事は長くなるのですか?」
「今のところの話では二年は留まるみたい。その先はまだわからないんですって。でも、永住ということはないから、ちゃんと帰ってくるわよ」
「よかった、お待ちしていますね。
今、何かお手伝いすることはありませんか?」
「大丈夫よ、ありがとう。顔を見せてくれただけでうれしいわ」
黒木が部屋に入ってきたので、由紀子は入れ替わりに部屋を後にした。