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暦 ―こよみ―

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 由紀子は常々こんな天真爛漫な妹を羨ましいと思っていた。今だって、今年がどんな年になるだろう? なんて考えてはいないのだろう。
 由紀子は今年誕生日が来ると二十九歳になる。二十代最後の歳であり、三十も目前……いろいろな思いが交錯する年齢だ。結婚、出産、仕事、これからの生き方……道は何差路にも別れている。
「由紀子、何ボーっとしているの? 数の子、まだ出せばあるわよ、食べる?」
 保子に声をかけられ、由紀子はハッとした。数の子は子孫繁栄を意味していると聞いたことがあった。それにはまず結婚、その前に恋人、そのもっと前に運命の出会い……由紀子にとってその道のりは果てしなく遠いものに思えた。
「ううん、もうたくさんよ、今、おじいちゃんたちが来たらどこへ行こうかなって考えてたの」
「気が早いわね、まだ一週間以上も先のことよ」
「そうね。ゆっくりプランを考えるわ」
「ありがとうな、由紀子」
 和孝は上機嫌で、杯を空けた。

作品名:暦 ―こよみ― 作家名:鏡湖