二重構造
確かに全体像の中でのテーマとしては、
――それぞれの研究所で発表する学説――
というものが暗躍したために、起こったことであることは、香月にも分かっている。
香月がこの話に登場してくるのも、元々はジャーナリストとして、
――学説を取材する――
という命題があったからだ。
「事実は小説よりも奇なり」
という言葉があるが、
「事実は、学説よりも奇なり」
と言った方が、もっと的を得ているような気がしたのは、香月だけではないだろう。
優香の学説も、あすなの学説も、まったく違っているように見えるが、どこかで一緒になっているように思う。その学説が、「二重構造」を形成していて、その「二重目」に、正樹の死の真相が隠されていた。
正樹は、自分が学説の発表に巻き込まれたのを感じた。
あすなも優香もその中にいる。あすなも優香も、お互いに正樹がそれぞれの相手を知っているということは知らなかった。知っているとすれば、綾だけだったのだが、綾は自分が全幅の信頼を置いている香月に対して、優香とあすなのことを話していた。
二重構造の正体が明らかになることもあるだろう。そしてその時には、正樹の死の真相も明らかになる。
あすなと香月が少なくとも、彼の死の真相に関わっているのは明白だった。そのことを最初に予感したのは香月であり、あすなの拉致監禁の火付けになったのは、このことが一番の原因だった。
二重構造の正体が明らかになるには、段階が必要になる。
その第一段階は、翌日の新聞を賑わせた。
「拉致監禁の犯人。被害者を巻き込み自殺。犯人は、香月正樹三十五歳、被害者は西村あすな二十八歳。香月は自称ジャーナリスト、西村さんは、K研究所の研究員」
しかし、この記事には誤報だった。本当は二人は心中だった。香月の胸のペンダントのロケットに貼ってあった写真、それは、幼い頃の優香だった。
二人が心中だと知っている人はいないだろう。いや、知っているとすれば、優香と綾だろうが、その二人はこの事件が発覚する数日前から行方不明になっていた。この場合、どちらが「一重目」だったのか、関係者全員がいなくなってしまった今、永遠の謎になってしまったのだ……。
( 完 )
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