オヤジ達の白球 31~35話
「俺の顔をたてろと、有無を言わさず試合を決めてきたという噂だよ」
陽子がグラスに浮いた氷を指で突きながら、祐介の背中へ語りかける。
時刻は開店前の午後の4時。
散歩帰りの陽子が、ふらりと祐介の店に顔を出した。
「別に支障はないだろう。
消防といえばたて組織の社会だ。
上司からの命令はとにかく絶対服従だからな」
「でもさぁ、正気じゃないよねぇ、まったくもって。勝てんのかい。
相手は20歳前後の、元気盛りの若者たちだ。
かたや脳にも体にも、障害をおこしかけている50代へ突入しはじめた
オジサンたち。
試合になんかならないだろうさ」
「誰が脳と身体に障害をおこしているって?。
ウチのチームは、ただの飲んべェどもの集まりだ」
「脳へのダメージが積み重なり、高次の脳機能障害を起こすと
パンチ・ドランカー。
料理をしながら酒を飲み、アルコール依存症になると、
キッチン・ドリンカー。
同じことだろう。
なんてたってチームの名前が、そのものずばりのドランカーズだもの」
否定はしないが、と祐介が苦笑を浮かべる。
「で。なんでおまえさんは今頃、このあたりをウロウロしているんだ。
夜中。人の居ない路地裏を徘徊するのが、おまえさんの
趣味じゃなかったのか?」
「不倫カップルと遭遇して、足をくじくのはもうまっぴらだからね。
そういえばさ、例のあの主婦。
可哀想に。離婚がちかいだろうと、もっぱらの評判だよ」
作品名:オヤジ達の白球 31~35話 作家名:落合順平