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【短編集】人魚の島

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「きみかな、このあたりで船を探してるというのは?」
 と、優男。いかにも訓練で鍛えたような、野太い、よくとおる声だ。
「おれたちになんの用だ?」
 男がクツクツと笑う。笑うと、目尻に細かいシワが寄った。
「私は〈黄金の三角〉号という船の船長をしているジスという者だ。どうかな、よかったら私の船に乗ってみないか?」
 それから、フードの奥の顔を伏せたまま押し黙っているティアナに向かって、
「そちらのお嬢さんもいかがかな?」
 ティアナの肩がピクリと震える。心持ち顎を上げ、フードの陰からジスと名乗った男をのぞき見る。なにも反応がないところからすると、この男のことは知らないらしい。
「お嬢さん、その目はいったい……」
 ジスがなにか言いかけて、途中で口をつぐむ。ティアナの真っ黒な瞳の色に驚いたらしい。
「……あんたの船はどこへ行くんだ?」
「もちろん、〈溺れた巨人の島〉だよ。そこへ行きたかったんだろ? 船はあと数時間で出港する予定だ」
 ダンは目を細めてジスの全身を観察する。悪人には見えない。さて、この申し出をどうしたものか、と考えあぐねていると、ティアナが横から口をさしはさんだ。
「わかりました。あなたの船に案内してください、ジス船長」
「おい!」
 ダンが抗議する。ティアナの手がサッと伸びてきて、ダンの手をにぎる。
「まずは船を見せてもらいましょう。乗船するかどうかはそれから決めればいいことです」
「それはそうだが……交渉はおれに任せるんじゃなかったのか?」
「じゃあ、あなたが船に乗るか、乗らないかを判断してください。それでいいですか?」
 ダンは軽く舌打ちする。ふたりのやりとりをおもしろそうな顔をして傍観していたジスが、人好きのしそうな笑みを浮かべた。
「ハナシはまとまったかな? よければ、私の船まで案内しよう」
 ふたりを木箱から立ちあがらせると、「ついてくるんだ」と顎をしゃくり、さきに立って歩きはじめる。てっきり波止場を突っ切っていくものだと思っていたら、ジスはふたりを倉庫の立ち並ぶ方角へ導いていった。
「ああ、こっちをとおるほうが近道なんだ」
 方向が反対じゃないのか、というダンの質問に、ジスは陽気な口調で応じる。
「とても大きい船なんでね。船は専用の桟橋に泊めている」
 木造の倉庫がひしめきあう一画にジスは立ち入っていく。ダンは四囲に注意を向ける。最近は使われていない倉庫らしい。どの倉庫も扉がなく、ぽっかりと開いた入口の奥の空間にはなにも置かれていなかった。なかには天井が崩落して、折れた材木が床に積み重なっている倉庫もあった。ゴミをあさっていた野良犬が泡を食って逃げていく。倉庫と倉庫のあいだの狭い路地をたどるにつれて足元のゴミが増え、鼻の曲がるような悪臭がどんどんひどくなっていった。
 なんだか様子がおかしい、と思ったときには手遅れだった。
 十歩ほどさきを歩いていたジスが突然、路地の真ん中でピタリと足を止めた。身体ごとふたりに向き直る。イヤな感じの笑みを口許にちらつかせている。おもむろに腰の剣を抜き、切っ先をふたりに突きつけた。

作品名:【短編集】人魚の島 作家名:那由他