【短編集】人魚の島
彼女は白い木製のベンチに腰かけてわたしを待ち受けていた。濃紺の制服を着て、膝のうえで両方のこぶしをギュッとにぎりしめた彼女は、どこにでもいそうな、普通の女子高校生にしか見えない。
彼女の隣に腰かけている少年──同じ濃紺の制服のズボンに両手を突っこみ、険しい眼でわたしをにらんでいる。
砂場をはさんで、わたしはふたりと対峙する。まるで舞台の照明みたいな色あせた陽射しが、わたしと彼女、彼を横合いから仰々しく照らす。もうすぐ冬が近い季節なのに、やけに生温かい風が吹きつけてきて、公園のかたすみにひっそりとたたずむ桜の樹の、黄色く色づいた葉むらをそっと揺らした。
さきに言葉を発したのは彼女のほうだった。やおらベンチから腰をあげ、力のない笑みを浮かべる。
「あたしを殺しにきたの?」
「そうよ」
とたんに彼女の笑みがしぼむ。少年が汚らしい言葉で悪態をつく。
ごまかしたりはしない。それが、わたしの仕事なのだから。