小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

【短編集】人魚の島

INDEX|26ページ/82ページ|

次のページ前のページ
 

 〈大地を砕く者〉は圧倒的な恐怖に胃が縮むのを自覚した。目だけを動かして必死に助けを求める。
 天幕の入口には不寝番の兵士が立っていたはずだが、〈大地を砕く者〉がそちらへ視点を動かすと、兵士は全員床に倒れ伏していた。どうやらこの老人が兵士を打ちのめしたらしい。ただの老いぼれではなさそうだ。
「何者だ?」
 〈大地を砕く者〉がかすれた声で誰何(すいか)すると、老人は喉をヒクヒクさせながら耳障りな笑い声を洩らした。
「おまえには感謝しているぞ」
 老人は〈大地を砕く者〉の目をのぞきこんで不吉な笑みを浮かべる。
「なんだと?」
「わしはおまえの先祖に仕えていた魔道師じゃ。五百年ものあいだ封印されていたのだが、おまえが目をつけたあの魔道師が、自分の声と引き換えに封印を破ってわしを解放してくれたのじゃよ。いままではあの男のいいなりになっておったが、おまえがきゃつを殺してくれたおかげで、わしはようやく自由の身になれたわ」
「そうか……おまえが魔法を使っていたんだな?」
「そうじゃ。きゃつは全部自分の手柄にしておったがな。なんとも器の小さい男よの」
「バカな。どうしておまえほど力のある魔道師があんな小物に従っていた?」
「封印を解いた者には無条件で従うのが魔道師の掟だからじゃ。わしはきゃつに従ったのではない。魔道師の掟に従っただけじゃ」
「くだらん。そんなものはただの口約束だ」
「ほう、くだらないと申すか。さもありなん。だがな、この掟があるからこそ、われら魔道師は魔法とともに生きることができるのじゃ。おまえはもっとあの男を信用するべきだったな。きゃつも魔道師の端くれじゃ。おまえを裏切ったりするようなことはしなかったろうよ。まあ、これから死ぬおまえに教えたところで無意味じゃが……」
 〈大地を砕く者〉は老人をにらみつけた。彼の心のなかで灼熱の憤怒が恐怖を打ち消していく。
「死ぬだと? 余を殺すというのか! おのれが王となるために魔法を使ってはならない──それも魔道師の掟のひとつであろう。おまえは魔道師の掟に従っていると、いま自分で言ったばかりではないか!」
 老人はやれやれというように首を左右に振った。
「なにを勘違いしておる。わしがおまえを殺すのは皇位を簒奪(さんだつ)するためではない。わしを裏切って封印したおまえの一族に復讐するためじゃ。あいにくと復讐を禁じる魔道師の掟はないぞ」
「……ま、待て。頼む、待ってくれ!」
 老人はきしむような声で笑うと、両手を高く掲げて滅びの呪文を口にした。

作品名:【短編集】人魚の島 作家名:那由他