【短編集】人魚の島
墜ちた勇者
階段を昇る。きみの顔を見るために。
最果ての大地にそびえる漆黒の孤城。この風景は千年前とまったく変わらない。たぶん、これから何千年が過ぎても、なにひとつ変わらないのだろう。
ひとつずつ、階段を昇っていく。きみはこの塔の最上階で眠っている。ずっと。
寒い。壁に開いた狭間からのぞくと、外は雪が降っていた。
思い起こす。千年前のあの日、きみといっしょにこの階段を駆け抜けたときのことを。あのときも雪が降っていた。
僕は王国で最高の剣士。きみは不世出の魔術師。僕ときみが組めば魔王にだって負けない。死闘の末に、僕たちは魔王を滅ぼした。
けれども、魔王の最後の反撃がきみに呪いをかけた。いつまでも眠り続ける呪いを。
僕は迷わなかった。きみといっしょにいたかった。だから、魔王の心臓を喰らった。魔王の魔力を体内に取りこんだ僕は、不死身の、新しい魔王となった。
階段を昇る。いつか、きみは目覚めると信じて……