短編集42(過去作品)
先住民については、きっとタブーになっているのだろう。最初から歴史に残されていないし、ひょっとして落ち武者の話は、先住民の話を残せない人たちが、何とか後世に残そうと作ったものかも知れない。その落ち武者を夢に何度も見ていることを思うと、ひょっとして自分が先住民の子孫ではないかという気持ちになってくる。
同じ街に住んでいて、狭い田舎なのに、まったく違う人種が入り混じって生活しているように見えたのも、まんざら錯覚ではない。そして、歴史に興味を持ったのも、不思議ではないだろう。
今までいろいろな夢を見てきたが、それがすべて先住民を意味していたと考えれば、自分がますます子孫ではないかと思えてならない。
きっと玲子も同じように子孫なのかも知れない。
――お互いにしか見えないものがあって、それを背中に見ている――
玲子はそのことに気付いていないだろう。だが、近いうちに気付くはずだ。敬介の後ろに見えるもの、それが見えているということに気付いているに違いない。近い将来、玲子とは結婚することになるということを確信していた。
敬介は今安らかな気持ちである。平和な時代の先住民が自分の中にいるのだから……。
( 完 )
作品名:短編集42(過去作品) 作家名:森本晃次