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短編集42(過去作品)

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 幸せの絶頂を最高の気分で味わっている妻が羨ましかった。素直に喜びを感じることができることの素晴らしさを思い知らされたように思えた。しかしそれでも結婚生活を続けていくうちに、幸せを感じることができるようになっていった。
――これが夢に見た結婚というものか――
 素直に嬉しかった。最初から素直になれなかった自分が悔しい。結婚数ヶ月で、やっと気持ちが妻に追いついたのだ。
 だが、その時から妻は離れていった。
 理沙子と再会してお互いの気持ちを確かめ合ったが、
「あなたと離れてハッキリ分かったんだけど、あなたは、女性と一緒にいる時は実に男らしいところと、まるで女性じゃないかって思うところと二人のあなたがいるのよ。それはあなたと別れてからというよりも、兆候は一緒にいる時から感じていたのかも知れないわね」
 と言われた。やはりどこか女性っぽいところがあるのだ。二重人格というべきか、知らない自分がもう一人いるようで気持ちが悪い。
 小学生の頃の記憶がよみがえってくる。声変わりして、異性に興味を持ち始めると、
――僕は女の子だったんじゃないか?
 などというバカげたことは考えなくなった。それを理沙子と再会していきなり言われたのだ。
――理沙子とは再会した日が永遠の別れになるかも知れない――
 と感じた。
 今まで別れていった女性たちが、どうして離れていったのか分からなかったが、女性っぽいところに気がついたのではないかと思えば納得もいく。
 元妻もそうだったに違いない。皐月にしたって同じだろう。
――そうだ、思い切って名前を変えてみよう――
 そう思って変えてみた。それからの人生、好転に向うような気がした。
 しばらくして女性と知り合った。名前を「しのぶ」という。
 彼女も同じように理由もなく男性から別れを告げられることが多かったらしく、悩んで名前を変えたらしい。
「同じような境遇の人と出会うのも、きっと何かの縁なんでしょうね」
 そう言って微笑んだしのぶの表情は、まるで鏡を見ているかのように思える時がある。
 自分が持っていないものをたくさん持っているところが好きだった理沙子と違い、しのぶはどこか自分を見つめているように思えてならない。
 出会うべくして出会った二人。しのぶは今でこそひらがなの名前だが、以前は漢字だった。
その字とは、
「信夫」
 だったのだ……。

                (  完  )


作品名:短編集42(過去作品) 作家名:森本晃次