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オーロラとサッチャー効果

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 その夢の中に近藤守も出てきた。むしろ、麻衣を思い出す時、一緒に近藤も思い出すというのは、切っても切り離せない関係にあるものとして意識していることのように思えてならなかった。
 麻衣が出てくるのは夢だからだという意識があった。
「どうして、麻衣はそんなに私の夢に出てくるの?」
 と聞いたことがあった。
 麻衣に裏切られたという記憶はあっても、意識としては、それほど恨んでいるわけではないのに、なぜ自分の夢に出てくることへの違和感があるのか、翔子は自分の気持ちが複雑なのではないかと思った。
 しかし、夢の中の麻衣は、そうは思っていないようだ。
「あなたが、単純に私に会いたいと思ってくれたからなのよ。そうでないと、私はあなたの夢には出てこないわ」
「どうしてなの?」
「私自身があなたに会いたいと思っていないからよ。夢の中にわざわざ出てくるのは、私の方もあなたに会いたいと思わないと、なかなか成立しないの」
「でも、出てきてくれたじゃない」
「それは例外もあるということよ。こちらが嫌だと思っても、相手が純粋に会いたいと思っていたら、こちらも出て行かないわけにはいかなくなるのよ」
「そうなの? それって夢の世界の掟のようなものなの?」
「そうね」
「私が知らないことをどうしてあなたが知っているの?」
「それは、私があなたの夢に出てきているから。人の夢に出る方には、夢の世界の理屈や掟をしっかりと分かっていないといけないの。だから私は今は夢の世界の使いのようなものだと思ってくれればいいわ」
「でも、それは誰にでも言えることなの? 私も誰かの夢に今のあなたのように出たりすることがあるというの?」
「ええ、でも相手が目を覚ますと、人の夢に出た人の記憶はまったくなくなってしまうの。だから、人の夢に出ることができるんでしょうね」
「夢を覚えているかも知れない私に、そんなにベラベラと喋ってもいいの?」
「どうなのかしらね。そこまでは夢の掟にはないようなのよ。だから、他の人もきっとお話しているんじゃないかしら? 本当に夢を見た人が、目を覚ました時、何か不思議には思うけど、自分を納得させられないので、理解できないんだと思うわ」
「確かに不思議に思うことが夢の中にあったような気がすることがあるわ」
「そうでしょう。それでいいのよ。しょせん皆、目が覚めるにしたがって、夢というのは覚めるものだって思っているんだし、もし夢を覚えていたとしても、夢の世界は架空の世界で、潜在意識が見せるものだって分かっているので、自分が納得できないことは覚えていないと思っていて当たり前なのよ」
 という彼女の話を聞いて、翔子はふと感じた。
――こうやって麻衣と話をしているのも、ひょっとすると私の潜在意識の中にあることななんじゃないかしら?
 と感じた。
 麻衣が夢の中で語っているような演出になっているが、
――本当は自分の潜在意識が見せるものであって、それを自覚したくないから、一番話の中に信憑性を感じることのできる翔子を出演させただけなのかも知れない――
 と感じた。
 その発想は、当たらすとも遠からじではないかと思った。考えれば考えるほど、最後には同じところに却ってくる気がする。それこそ、
――無限ループの矛盾――
 を感じさせるものではないだろうか。
 ただ、翔子が友達と話した絵から連想して、異次元の話から結びついた「無限ループ」の発想は、現実にあったことである。
――でも、その友達のことが曖昧な意識としてしか残っていないのは、どうしてなのかしら?
 と不思議だった。
 麻衣ほどのインパクトがなかったわけではないのに、どうして麻衣ばかりを思い出すのか、翔子には無限に疑問として残るのではないかと思えてならなかった。
 上から目線になってしまうのは、翔子が普段から夢の世界と現実世界の区別を意識しているからではないだろうか?
 普段は上から目線だということを人に悟られたくないという思いを持っている。その思いが、人と同じでは嫌だと思う自分の気持ちを形成している。
「お前らのような連中とはデキが違うんだ」
 とでも言いたい気持ちだった。
 こんな気持ちになったのはいつが最初だっただろうか?
 本当は前から意識していたかも知れないが、一番序実に感じたのは、短大時代のことだった。
 その頃、ちょっといいなと思っていた男子がいた。彼とは付き合い始める要素があったが、まだハッキリと付き合っているとは言いがたい時期がしばらく続いていた。その男性はハッキリと自分の気持ちを相手に言うタイプではなく、引っ込み思案なところのある男性だった。
 翔子は性格的に、本当はそんな男性を好きになることはないと思っていたが、相手がなついてくる状況に、まんざらでもないと思うようになっていた。男らしい人に惹かれていたのは中学くらいまで出、高校生の頃は、彼氏を本当にほしいとは思わないようになっていた。もちろんいればいるで嬉しく思うのかも知れないが、引っ張っていってくれるようあ相手を望んでいる反面、あまり強引な相手だと自分とぶつかる可能性があると思い、敬遠もしていた。
――自分の理想と願望とでは、少し開きがあるのかも知れないわ――
 と思うようになった。
 理想は、引っ張っていってくれる人であり、願望は、強引ではない人という、矛盾を孕んだ考えに、彼氏を持つことの煩わしさを感じるようになっていた。
 しかし、短大に入ると、高校時代のような暗い自分の性格が一挙に明るくなった気がしたことで、自分の性格まで変わってしまったのではないかという錯覚を覚えたのだ。
 まわりに感化されたくないという思いがある反面、当てにされたりすると、調子に乗ってしまうこともあり、自分でもお調子者だという意識があった。おだてに弱い性格は時として損をすることがあり、その思いが人との接触に抵抗を感じさせたのだった。
 友達から合コンに誘われた時、断ることもできたが、
――一度くらい経験しておくこともいいかも知れないわ――
 と、勉強のつもりで参加した。
 しかし、せっかくの合コンだったのに、何を話していいのか分からず、輪の中から自分が浮いていることをすぐに悟った。三対三の合コンだったのだが、友達二人は自分たちが誘った翔子に目もくれず、目の前にいる男性との会話に花を咲かせていた。
――私はただの人数合わせなんだわ――
 よくあることなのだろうが、まさか自分がそんな立場に陥れられるとは思ってもいなかった。
 相手の男性グループにもその時の翔子と同じ立場の男性がいて、彼も一人、何を話していいのか分からずに途方に暮れていたのが分かった。
 そうなってくると、翔子は自分の方が立場が上だと思った。積極的に自分からその男性に話しかけたが、最初は彼は話しに乗り気ではなかった。
 だが、翔子が話し始めたタイムマシンの話をきっかけに、会話に火がついた。翔子としては、別に会話にならなければそれでもいいと思った。最悪、席を立って帰ってしまえばそれでいいと考えていて、
――残された人のことなど、誰が考えてやるものか――
 と思ったのだ。