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タイトル未定

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「俺はたこ焼きが食いたい!」
「りんご飴は俺も好きだぞ。和志はたこ焼き食いたいのか。聞いてないけどな」
 騒ぎ出した二人をあしらっていると、けーちゃんが嬉しそうに控えめに笑った。
「どうかした?」
「いえ。三人とも仲良くなってくれてよかったなと思いまして」
「あーなるほど」
 まさかこんな関係になるなんて俺も考えてもみなかったよと思ったが、それを口に出すのは無粋だと思ったから言わないことにした。
「それで…あの‥…」
 けーちゃんは口元で両手を指の腹だけ軽く合わせ、恥ずかしいのだとでも言うように聞いてきた。
「花火は…ありますか?」
「けーちゃんは花火が好きなのか?」
「はい。花火は…好きなんです」
 花火は好きなんですと、彼女は2度繰り返した。
「じゃあやっぱり皆で行こう。出店で食べ物買って、河原で花火を見よう」
 三人は快諾してくれた。俺はそのことが嬉しかった。土曜日が待ちきれなくて、毎日毎日まともに寝れやしなかった。
 後になって気がついたが、一輝が持ってきた祭りの運営の資料を見ると、神社での祭りの開催日は花火が上がる方の大きな夏祭りの翌日の事だった。
 もちろん、神社の夏祭りの開催まで1週間もないということで翌日から毎日学校に行き、神社の夏祭りの主催者との打ち合わせをしなければならなくなった。
 
「あぁ。やっぱりしらのは来てないのか」
「まぁな。あいつあんなんでも巫女達のリーダーらしいからな。ちょっと前までバスケ部のキャプテンだったのによくやるよ」
「あいつは昔からそうだったよ」
 木曜日。学校の会議室で祭りの主催を待ちながら、俺と一輝は昔話に花を咲かせた。
 祭りの運営は俺たち三人と後輩2学年で各二人ずつの計七人だった。本来はもっと人が必要なようだったが集まらなかったようで、結果として七人で運営をしなければならなくなってしまった。
 けれど、完全に俺たち七人で運営をしなければならないというわけではなく、俺たちはあくまでも、主催の人がかき集めた成人組の運営の補佐として祭りの運営に関わることになる。
 だがまぁ、仕事が多いことに変わりはなかった。
 俺の役割は当日祭りに来た人たちに無料配布の素麺《そうめん》とアイスクリームを配布することに決まった。一輝としらのも同じ担当になった。
 翌日の金曜日は最終確認をして、土曜日の午前にリハーサルを行った上で当日を迎えると言われ、俺たちはそれを了承して帰路に着いた。
 土曜日はけーちゃんと和志と彰人と四人で夏祭りに行く約束があったけれど、祭り自体は夕方の五時からだったから別にきにする必要はないだろうと思った。
 翌日。金曜日。雨が降った。
「なぁ…。これ、明日祭りちゃんとあるの?」
 朝食を食べている途中、和志がおもむろに立ち上がって網戸越しに外の景色を眺めながら落ち込んだ口調でぽつりと言葉をこぼした。
「大丈夫よ。明日の朝には止むってお天気予報でも言っていたのだから」
「そう…だよね」
「座りなよ和志。ねーちゃんが怒るぞ」
「そうだよな。ねーちゃんごめん。彰人も。それと凌も」
 三人の会話をただ無言で俺は聞いていた。そして、和志が雰囲気を悪くして悪かったと謝ってきた時点で「気にすんなよ」と俺は口を開いた。
「大丈夫だ。楽しみにしていたんだから不安に思うのは仕方がない」
 そこから先は言えなかった。
 この辺は近くにダムが複数ある影響と山の至るところから雨水が川に流れ込む影響で、たとえ雨が止んだとしてもそこから丸一日は川が増水したままなのだとは言えなかった。そして、川祭りは川の中央に浮かぶ小島から花火を打ち上げるのだから、増水した状態では花火をあげられないのだということができなかった。だから、きっと祭りは延期になるのだとは言えなかった。
 そして延期になった際、俺は神社の方の祭りに行かなければならないから、三人と一緒に祭りに行くことはできなくなるんだ。とは、言えなかった。言えるはずがなかった。
 俺は言葉を飲み込み、選び、本来言わなければならない言葉とは別の言葉を言った。
「明日。楽しみだな」
 雨が都合よく濁してくれることを願って言ったけれど、俺の言葉はまるで真綿で首を絞めてくるかのようにじわじわと、だが確かに部屋に満ちて言った。
 あぁ。俺はまた、何かを違えてしまったようだ。

 翌朝まで降り続けるという予報とは裏腹に、雨は打ち合わせの終わる夕方頃にはピタリと止んだ。
 空は朱に染められ、それを遮る無粋な雲はほぼ無かった。
「雨、止んだんだな」
「これで明日は安心だね。花火見れるよ」
「んー。そうだな。浴衣着てく?」
「もちろん着ていくよ。だって、明日着ないと着るチャンスなんて来年まで来ないもん」
「……そうだな。明後日は俺と凌は浴衣だけどお前は巫女服だもんな」
「あれ、暑いし汚したら怒られるしで着たくないんだけどなぁ」
 雨が降っていたことを感じさせない空を眺めながら一輝としらのが明日の話をしていた。その仲よさげな会話を聞きながら、俺もぼうっと空を見た。
「でさ、明日凌も来るよね」
「ん?ああ。え、なにが?」
 かけられた言葉に生返事で答えると、しらのが「え〜!話聞いてなかったの?!」と頬を膨らませた。
「で、なにがなんだって?」
「だ〜か〜ら!明日の川祭り、凌も私たちと一緒に来るでしょ?」
 なにを言っているんだと思った。俺がけーちゃん達と行くという事実を差し引いても、しらのは自分のデートに俺を交えようとしている。気まづいに決まっているだろう。
「あーいや。ダメだろ」
「え、どうして?」
「お前達の邪魔はしねぇよ」
「私と一輝なら大丈夫だよ」
 ね?と話を振られた一輝は俺の顔を見て悪い笑みを浮かべた後、「いや、凌はダメだろ」と言った。
「どうして?」
「コイツはコイツでデートがある。俺たちが邪魔しちゃあ悪い」
「ちょっ!お前なに言ってんだよ」
 そんなに慌てんなよと一輝は大きく笑った。その目が笑っていないのがありえないほどに不気味だったのを覚えている。
「そーゆーわけだから、俺たちは俺たちで行こう。コイツのためにもな」
「まぁ。一輝がそう言うなら…」
「サンキュー」
 一輝はそう言いながらしらのの頭を撫でた。俺がいるんだから少しは抑えてくれよと思った。
「さ、帰ろう。凌もな」
 もうそう言う流れなのだとでも言うように、俺は一輝としらのと三人で帰った。一輝を真ん中に三人で並んでくだらない話をしながら。

 夜、どうしても眠れずに外の様子を見に言った。時間はどうだったか、星が綺麗に見えていたのだから、日付が変わる頃だった気がする。
 雨が降っていたらどうしようと思いながら外に出たのだが、そんな心配は杞憂だったようで空には雲一つ浮かんでいなかった。
 夏とは言え雨上がりの夜。空気が水分を多く含んで冷やされ、比較的に過ごしやすい気温になっていた。
 しばらくなにも考えずに星を見ていたいと思い、俺は一旦家に入ってパピコを取ってきた。俺はなにも考えずにアイスを食べながら夜空に浮かぶ塵のような星の数々を見るのが好きだった。それに関連して、俺は散歩をするのも好きだ。
作品名:タイトル未定 作家名:リクライ