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タイトル未定

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 教えてくれよ。と、心のそこから思って言葉にするが、当たり前のように答えは返ってこない。一輝はもう、この世にいない。
「俺も、そっちに行っていいか」
 冗談半分に俺は‘本音’をつぶやき、俺はその場で服が汚れるのも気にせず、ごろんと寝転がった。目に映る空の色は嫌になる程清々しく青く、俺は、その景色がどこか現実のものには思えなくて、目を逸らしたい衝動に駆られた。
 そして、俺が寝転がってすぐのこと、空を見て嫌悪を覚えたわずか一瞬の後のこと。
 共同墓地の入り口部分から、女の子にしては低めの声が聞こえた。
「それ、どういうこと」
 と、そう言った声の主は一人しか考えられなかった。
「あぁ。聞いてたんだ」
 俺はしらのに向かって興味がないとでも主張するように言った。その会話に続きがあるのか。続きがあるとして、それを語り合う必要性はあるのかとでも言うように、抑揚を抑えて言った。
「聞いてたんだじゃないでしょ。どうしてそんなこと…」
 そんな事とは多分俺も一輝の側に行っていかと言っていた事だろう。その言葉はつまり、俺も死んでいいかと言う事になる。曲解《きょっかい》で極解《きょっかい》をすれば、それは、‘俺も自殺をするぞ’と言う意思表明になる。
 我ながらバカバカしい事を考えてバカバカしい事を言っているものだと思った。
 もし本当に死にたいと思っているのなら、アイツのいない世界に嫌気がさしていて、もう生きる事に意味がないのだと思っていたのなら、俺はとうの昔に自殺をしていたはずだ。三年が経つ今ではなく、アイツが居なくなってすぐの夏の終わりに、俺は自ら命を絶っていたはずだ。
「ねぇ。冗談…だよね?」
 心配だとでも言うように声のトーンを落としたしらのは、寝転がる俺の元へ歩みより、その傍らにしゃがみ込んだ。
「本当に死にたいなんて、思ってないよね」
 そう言いながら俺の顔を覗き込むしらの。
「やめろよ。パンツ見えるぞ」
 年相応とは言えないような子供っぽい白のワンピースに身を包んだしらのに俺はそんな言葉を吐き、しらのからの質問を踏み倒した。
「それは大丈夫」
 俺のセクハラじみた発言にしらのは大丈夫と言いながら、悲しそうに笑った。
「だって。凌《りょう》は私に興味ないでしょ」
 その言葉に、俺は返すべき言葉を見つけられなかった。どんな言葉を選び、どう取り繕ったところで、全てが彼女にとって失礼な言葉になってしまうと思ったから。俺の持つ言葉の知識だけではどうしても最適解を見つけられないと思ったから。
「凌は今もまだ…あの子の事が好きだもんね……」
 と、寂しそうにしらのが放った言葉に、俺は胸が締め付けられた。怒りによく似た感情がこみ上げてきて、しらのにつかみかかってやりたい衝動に駆られた。それをなんとか堪える。
 苦しそうに唇を噛む俺を見て、しらのはから笑いをした。
「私も苦しいよ。凌とは違って、愛した人にはもう会えない」
「会えないのは俺も同じだ」
「違うよ。一輝はもう死んじゃったけど、あの子はまだ生きているでしょ?」
「だとしても、俺はもうアイツに会えない」
 随分と自分勝手だなぁと、悲劇のヒロインになりたがるんだなぁと笑ったしらのは、その後一輝への挨拶を済ませてさっさと帰ってしまった。
 俺を置き去りにして、しらのは先へ進んでしまった。
 
 家に着くと、家の中に入る前に道路を挟んだ向かい側の家を見た。しいたけ婆ちゃんの家だ。あの夏、アイツが暮らしていた家だ。
 あれから三年、変わらないものは全く変わらないけれど、変わるものは随分と変わってしまった。
 例えばほら、我が家の隣には空き地があったけれど、そこに家が建ち始めている。向かいのしいたけ婆ちゃんはもうキノコを作るのを辞めてしまったし、なんならしいたけ婆ちゃん自体、体力の問題なのか、家からほとんど出る事がなくなってしまった。
 他にも、家の前の坂を下りたところにあった無数の田んぼはその多くが埋め立てられてしまい、そこに大きな工場ができた。何を作っているのかはわからないけれど、会社の名前からして電化製品とかその関係部品を作っているのだと思う。
 街は変わってしまった。変わらない部分もあるけれど、それよりも変わってしまったものの方が圧倒的に多い。
 もう、アイツの知るこの街はない。
 もう、この街が知るアイツは居ない。
 俺は自分がどうするべきだったのかと、まるでそれを問うかのように向かいの家を睨《ね》めつけた。願わくば、アイツがひょっこりと姿を現してくれるようにと、叶いもしない望みを胸に、すがるようにしいたけ婆ちゃんの家を見た。
 アイツに初めて会った翌日、俺はアイツと2度目の対面を果たした。思いがけない遭遇だった。
 その日、俺はラジオ体操当番で、朝早くに眠い目をこすりながら会館へと向かった。
 いつものようにラジオをセッティングし、やってきたご近所さんやちびっ子達と向かい合う形でラジオ体操をこなし、最後に皆のラジオ体操カードにスタンプを押すためにインクとかハンコとか道具を広げた。
「お願いしまーす」
 そう言いながら次々にやってくるちびっ子達のカードに無心でハンコを押し続けていると、「お、お願いします」と控えめな声でカードが3枚差し出された。
「はいはーい」と俺は雑に返事して、スタンプを押してカードを返したとき、俺はようやく誰のカードにハンコを押したのか理解した。
「あ、昨日の」
 俺がそう言うと、長い綺麗な黒髪を後ろで束ねたその少女は、鼻が詰まったような少しくぐもった声で、「その節は」と言って小さく頭を下げてきた。
 改めて思ったけれど、わずかに目尻が下がって垂れ目気味だからなのか、それとも、左の目尻にホクロがあるからなのかはわからないけれど、ものすごく大人っぽく見えた。妙に劣情を煽ってくる少女だと思った。
「ではまた」
 そう言い残し、少女は昨日いた男の子二人と一緒にその場を去っていった。
「あんな子いたっけ?」
 すぐ後ろに並んでいた野球部の後輩が少女の後ろ姿を見ながら不思議そうに言う。
「いや、なんか昨日からこっちに遊びに来たっぽい」
「へぇ。てか、なんでそんなこと知ってんの?」
「偶然神社で会ったんだよ」
「なんでまた神社なんかに」
 さすがに素直に答えることはできなかった。なにせ、ここで素直に答えてしまえば俺は自分がストーカーまがいのことをしていたのだと堂々と宣言してしまうことになるわけだ。だから俺は誤魔化して答えた。誤魔化したと言うよりは、嘘をついた。
「カブトムシを捕りに行った」
 年相応のありえなくもない話ではないかと思った
 後輩は俺を疑うような目で見た後、「まぁいいや」と言って無理やり納得してくれた。
「それよりも、今日は部活に遊びに来る?」
 その問いに「嫌」と一言で答え、俺は再びスタンプを押す作業に戻った。
 彼女と三度目の遭遇を果たしたのは、このわずか10分後、家の前でのことだった。
「「あ」」
 間抜けな顔をしながら声をこぼしたのはそっくりな顔をした二人の男の子だった。二人は年齢に差があるようには見えないし、たぶん双子なのだろうと思った。
「…あ」
作品名:タイトル未定 作家名:リクライ