小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

短編集41(過去作品)

INDEX|14ページ/21ページ|

次のページ前のページ
 

 ベッドの中で竹下にしがみつきながら綾子が話す。真っ暗な部屋で天井を眺めながらその言葉を聞いていた竹下は、感無量であった。さっき飲んだコーヒーのせいか、口の中が少し苦い。
 まだ息遣いの荒さが残っている部屋は湿気を感じるせいか空気が重苦しい。ホテルに女性を伴って入るのは綾子が初めてではないが、これほど空気の入る隙間のないほど身体が密着してしまうのは綾子が初めてだ。まるでそのまま溶けてしまいそうな感覚は、相手の身体が熱く火照っているにもかかわらず、熱さを感じることはない。違和感どころか、密着して纏わりついている感覚がこれほど自然なものだということを初めて知らされた。自分の身体が綾子の中に入り込んでいくような錯覚すら覚えた。
――このまま眠ってしまいそうだな――
 きっとこの感覚は普段女性が感じるものではないだろうか。男の竹下は襲ってくる睡魔に逆らうことをしない。綾子の言葉を聞いている時も、気分が虚ろだった。
 綾子も眠りに就いてしまいそうな雰囲気があった。
「どうしてなのかしら。私があなたを好きになるなんて。好きになってはいけない人を好きになるって感覚、あなたに分かるかしら?」
 夢見心地の中で綾子は寝言のように話している。聞いている竹下も、遠くの方から聞こえてくる綾子の言葉を、理解できないまま夢と現実の狭間を彷徨いながら聞いていた。
「一体、どういうことなんだい?」
 竹下も聞き返す。
「私は今までやきもちなんて妬いたことのない女。冷徹なところがある女だと思ってきたわ。そうね、どちらかというと男っぽい性格かも知れないわ。義理人情に厚いタイプなのね。だからあなたに近づいた」
 意味が分からない言葉を聞いて身体を起こしたいのだが、起こすことができない。綾子は続ける。
「私は最近、綺麗になっていく自分に気付いたの。それまでは自分が綺麗になっていくなんて考えたことがなかった。でもどうしてかって思うようになったの。すると浮かんでくるのがあなたの顔。自信過剰なくらい自分に自信を持っているあなたの輝いている顔なのよ。どうしてもっと前にその顔をしなかったの? って言いたかった。でも、それを言ってしまうとあなたとは出会えなかった。今の私は複雑な心境なの。あなたには分からないでしょうね」
 従順だと思っていた綾子の反骨を見てしまった。だが、反面、一番従順な顔をしているように見えている。それだけ綾子の中で紆余曲折が繰り返されているように思える。
「ミイラ取りがミイラになった。でも、結局私はあなたを永遠に自分のものにしたいという気持ちを実行することに決めたは、それが遠回りしたけど、最初の目的と同じことになるのよ」
「最初の目的?」
「ええ、私は静子と知り合いなの。あなたのことを永遠に忘れることができないから、永遠に思えるままに命を絶った静子のね」
 静子が死んでいたという事実を聞いてビックリしていない自分にゾッとしている竹下だった。
「あなたといると、時々あなたの後ろに静子を感じるのよ。彼女はやっぱりあなたを永遠に自分のものにしているのかも知れないわ。あなたは、ずっと同じ性格だったことに気付いていないでしょうね。それは無意識にだけど、この世で永遠を求めていたからなの。でもそれも叶わないわ」
 きっと竹下も自分で感じている病的な部分を言っているのだろう。
「あなたはやっぱり自信過剰な方が素敵だわ。素敵なまま、私はあなたを永遠のものにしたいの。今の私は幸せなのよ。だって、あなたにも私を永遠のものにしていただけるんですもの……」
 意識が朦朧としてくるのと同時に、身体の痺れが取れなくなってきた。湿気た空気が一気に身体にのしかかってくるようで、苦しさを伴っている。
「ちょっとの辛抱よ、それで二人は永遠のものになれるのよ」
 綾子の言葉も、もはや言葉にはなっていなかった。きっと竹下にしか分からない言葉だったであろう。
 湿気た空気、部屋の中に充満し、後は乾いていくだけだった……。

                (  完  )

作品名:短編集41(過去作品) 作家名:森本晃次