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ネヴァーランド

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「君の誤解が根深いことを思い知らされる。悲しいことだが、しかたない。ちっともわかってないな。あのね、そんなんじゃないだ。さかさまだ。君は僕をまだ知らない。いつの日か、きっと多くの者が僕を憎むだろう。遅れてたどり着いた僕にはやっぱりそのハンディを克服できなかったからだろうか。失敗の多い僕のことだ、失敗したこと自体に気づかなくなってしまう可能性もある。結局、自滅に陥り、かき消えてしまうか、怒った誰か、あるいは誰かたちに消されてしまう恐れがある。もうね、今からそれは覚悟しているんだ。僕の今の、感じ、がそうなんだ」
「いいえ。あなた、何でそう悲観的なの。そうはならない。私にはわかる」
「わかっていない。たとえば、君は無私と言ったけど、僕にはただ、勉強や運動をするとき、エゴが邪魔で邪魔でしかたなかっただけなんだ。それだけの意味での無私の精神であって、ヒューマニズムも博愛主義もヒトダスケも無関係だ。別のエゴがエゴを排除しているに過ぎないかもしれない」
「それはもう、エゴじゃないでしょ」
「とにかく、買いかぶってもらっては困る」
「あっ そう。まあ、いいわ。買いかぶるかそうしないかは、私の勝手だわ」
「あのさ、これでもいくらか経験を積んで、自分がどんな反応をする生き物か、判ったところもあるんだよ」
「さあ、どうだか。あなたはさっき、無私の精神をとても上手に説明できたのに、自分のこととなると不器用だわね」
ずっと、目の前で左右に垂れている乳房が、気になって仕方がない。手前側の乳首にそっと手を伸ばし、人差し指と親指でつまんでみた。ヘレンは顎の下に皺を寄せながら僕の手を見たが、何もせずに、徐々に頭を倒していった。なんだか、感謝したくなった。
こんなに柔らかだったろうか。しばし触診を続けていると、人差し指の付け根に何かが噴射された感があり、見ると薄白い色の乳だった。なめてみたが、おいしいものではなかった。
ヘレンは、かすかにうめいて、僕の体にぶつかるように、寝返りを打った。僕の右膝は、ヘレンの柔らかくて中のほうが硬いわき腹に、半ば埋まった。
「さあ、これから、わたし、どうしよう」
意味のわからないことを口走ったので驚いた。これからなにをするかわからないはずがないじゃないか。
僕を圧迫していると気づいたからだろうか、少しだけ、ヘレンの尻が持ち上がり、膝への重みが軽減した。さっきからひたひたと嵩を増してきた快楽の予感が、露骨な勃然たる覇気となって、一気に僕の全身に漲った。もしこれがヘレンの技術だとしたら、おそれいる。
「さあ、これから、わたし、どうしよう。ああ、どうしよう。モーゼの女だもの。モーゼを拒めないわ」
この一言は、モーゼが激しくヘレンを攻め立てていく映像妄想を掻き立て、ペニスは仰角四十五度の百段階段を駆け上がる際の心臓のようにあえぎ、下腹を連打しはじめた。その一打一打が性感を上乗せして行く。ヘレンの尻はさらに持ち上がり、おいしそうな匂いはより近くからよりきつくなって漂ってきた。きっとチーズは溶けて流れ出していることだろう。現場を見たくてたまらない。うーぅ。
ついに我慢できずに、体を回しながら立ち上がった。ペニスが揺れながら空を切った。亀頭に当たる風の冷たさまでが、ペパーミントみたいで、性的刺激になった。ヘレンの左足を跨いで、両足のなす角の中央に座り込み、右手で右の尻、左手で左の尻をつかんだ。眼前には待ちに待った稼動中のチーズ工場。普段は、割れ目の上端が見えるに過ぎないが、ほぼ真下から見ると、よくもまあ内臓がずり落ちないものだと感心するほどに底の抜けた構造だ。滑稽すぎて射精しそうだ。
両足がすばやく閉じて僕の太股を音立てて打った。内股の筋力がこんなに強いとは思わなかった。痛かった。ヘレンはいつの間にか肘をついていたが、顔は額が床に着くかつかないか位に伏せたまま「抵抗する素振りぐらいはするよ」と言った。
ああ、いいとも。どんどんやってくれ!
つかんでいる尻の間に顔を近づけようとすると、察知したかのように、大殿筋がうごめいて、尻が遠のいた。肘をついたまま這って逃げたのだ。そうはさせじとこちらも四つん這いで追いついて、左手をヘレンの左膝の前についてブロックし、上半身を背中に乗せ、右手で右乳房をつかんだ。僕の体重に耐え切れず、腰が徐々に下がって行く。皮膚は温かく、汗ばんでいて、表皮から浮いているかすかな産毛を潰す行為が、やや楽しい。
いつものことだが、興奮すると、耳鳴りがしてきた。遠くから、今度は音楽ではなく、サイレンの音のようなものが聞こえてきた。
木につかまった昆虫が蜜に這い寄るように、体を背中に這い上がらせていく。
想像上の視点が現実のそれを阻む。ヘレンの襞だらけの膣の中から、膣開口部を僕は見つめている。もうすぐそこを左右上下に肉片を振り分けて、縦に亀裂の入った僕の亀頭が、失礼します、ぺこぺこおじぎをしながら入ってくるだろう。
サイレンの音は、頭の中で段々大きくなってきた。
……いや、ちがう。頭の外から聞こえてくるのだ。段々近寄ってくるぞ。
まーま、まーま、まーま、まーま。
なんということか。ベータの泣き声じゃないか。
急速に萎えていく。その引き攣れていく退縮が刺激になって、おお、萎えつつ発射してしまった。こんなことがあるとは思わなかった。Tsunamiの引き潮の被害にあったようなものだ。快感は遠い祭り太鼓さながら、かなたから聞こえてくるだけだ。徐々に、走り去るサイレンのように遠ざかる。
大急ぎで後ろに退き、床に飛散したフエキ糊を、鮨鮎を売っている酔っ払い女が、ゲロをその上に吐き散らし、あわてて手でこねまぜてごまかした一節を思い出し、胡桃油で光っている床に両手で塗りつけた。僕もあわてているんだ。生のフエキ糊は臭かった。
まーま、まーま、まーま、まーま。
ヘレンもやっと起き上がり、僕に眼を合わせないようにして周囲を大きな眼でぐるり見回すと、右手を右胸に、左手を割れ目に押し付け、奥の部屋に駆け込んだ。
「ごめんなさいませ、おひーさま、ベータ様が泣き止みません」
塗りつけた精液の上に坐って、ふいの嵐のように闖入したメノトの抱きかかえた、もだえるベータの尻や太股の辺りに眼をやった。
メノトがつねった痕を、僕は探している。

103)

ケツを浮かすかどかすかしたほうが、早く乾くのではないか、しかし、乾いたら跡が白く浮き出るのではないか、と、ろくでもないか切実かわからない思案をしながら、時間の過ぎていくのを見ているうちに、こうしているとケツに張り付くなあ、新たな心配の種が出てきた。
奥の部屋から、体がぶつかり合うにぶい音が聞こえ、やがて、憤然としたメノトが足音荒々しく先に立って現われ、乳首を口に含んだまま眠りかけているべータを抱いてヘレンが後に続く。
「私もスミレを摘みに行くわ」
こちらを見ずに言った。
メノトが、音が出そうなくらい急にふりかえる。ヘレンは、右目をつぶって顎を突き出し、先に行くように合図した。
作品名:ネヴァーランド 作家名:安西光彦