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ネヴァーランド

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彼女の肩に両手をかけ、手前に引きながら、二三度つっかかった後、めでたくペニスの挿入をはたした。
入れたときの擦過感にしびれ、引いてみるとまたその擦過感にしびれ、前後に往復を繰り返す羽目となる。
最初は徐々にアダージョ。段々大胆アンダンテ。我を忘れてアレグロ、プレスト。後は野となれ山となれ。ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。
ああ、なんというほがらかさ!
なぜもっと前にしなかったのかと悔やまれる。
極楽オシッコ、ほとばしった。

17)

女の子をヘレンと名づけた。名前を訊いてもとぼけているので、こっちで勝手につけた。
丸一晩へレンと性交をし続けた。ちょっとだけ寝た。
翌朝、へレンは拒否した。
つぶらな瞳で僕を見つめたまま後ずさりしたのだ。
性交回数の上限が決まっているのか? 朝はおこなっていけないとでもいうのか?
僕はヘレンを問い詰めた。
答えがない。
ヘレンは涼しい顔をして横を向いたままだ。
分かっているのだろうか。分かっていても分からない振りをしているだけなのだろうか。
左向きのその顔は美しい。
僕は渋々学習に取り掛かった。
ヘレンは、僕を流し目で確かめながら、ポテトチップスを食べ続ける。
一緒に体育館に行った。
僕が汗をかいている間、へレンはどこかに消えた。
彼女は大勢の友達を連れて戻ってきた。
みんなで僕の部屋に行った。
彼女らのはしゃぐ声と熱気と媚態に囲まれて、僕は我を忘れた。
父から聞いた物語に出てきた女の子を思い出しては、片っ端からその名をつけていった。
最初の子をウェンディと名づけた。
ウェンディは、性交を一回終えると、そそくさと集団の中に消え、すぐにティンカーベルを押し出した。ティンカーベルも一回で済まし、次の葉子にバトンタッチした。
葉子の次はソーニャだ。ソーニャの次はかぐや姫。かぐや姫の次はアリス。遠山のお嬢さんがいて、美登利がいて、ポーシャがいて……
翌日もまた女子集団が押し寄せた。僕は生殖行為に病みつきになった。睡眠をほとんどとらず、昼も夜もそれに励んだ。
三日目の浮舟からは、単独で来るようになった。それまでの躁に憑かれた子達とはうって変わって、どの子も落ち着いており、思慮深そうで、悲しげな風情さえあった。ロリータが来て、落窪の君が来て、グレートヒェンが来て……、もうその後は憶えていない。
女の子たちの不思議な連鎖……
ときどき白い女の子。黒はもっと多かった。
内部構造はほぼ同じだった。しかしそもそもあれは内部ではない。表面が陥入したものであって、底が抜けている。
一ヶ月近く過ぎて、急につまらなくなった。憑き物が落ちたような感じをおぼえた。繰り返しの典型だ。正確に元に戻り、わずかの進歩もない。
欲望も快感も消えうせた。
僕は廊下で、振り返らずに、後ろからついてくる女の子に、もう終わりにするよ、ごめん、帰ってくれ、といった。かすかに、かなわんわあ、と聞こえた。
長らく心ここにあらずの状態で勉強をしていたので馬鹿になった。
父に詫びて僕の放蕩を許してもらい、もとの生活に戻った。
父は、僕の様子を観察してきたはずだ。
しかし沈黙を続け、最後まで叱らなかった。
もとの生活とはっきり変わった点が一つある。
夜昼逆転した生活が身についてしまい、どうしても朝起きられなくなった。無理して起きると立ちくらみして倒れてしまう。
そしてある日、僕はさわやかに目覚めた。
全身に充実感がみなぎり、脳にたくさんのアイディアが湧き上がる。
グレン・グールドが、オルガンで、フーガの技法を弾いている。
「おはよう、タダヨシ。眼が覚めたかい?」
部屋は真っ暗だ。



18)

何日も過ぎた。
僕は学習と運動のノルマを暗闇の中でこなしていく。以前にも増して熱心に取り組む。
シャワーを浴びる時や、ベッドに横たわる時は、彼らのことを思いだす。
そのしぐさ、ひどい訛りの言葉のあれやこれやが頭に浮かぶ。
たくさんの断片は、とめどもなく浮遊していたが、時間の経過につれて、まるで渦を巻くように、徐々に全体として形を成してくるようだ。渦の焦点はなんだろう。
彼らは落ち着きがなかった。壁を叩いたり、頭を打ちつけたりする者がよくいた。おしゃべりで、大食いだった。何かをさがし求めて、それが手に入らずにいらいらしているのだ。ストレスが蓄積していた。その解消法が飽食と馬鹿話だ。本質的な解決にはならない。
部屋に来た女の子達も、眼に落ち着きがなかった。落し物をさがしているようだった。しきりに周囲を見回し、天井を見上げた。中には、壁を透視するかのように見つめる子もいた。訛った言葉で繰り返し問いかける子もいた。
僕は、何日も思案した結果、渦の焦点が分かった気がした。
彼らはwindowsをさがしていたのだ。
いったいどうして?
彼らには何の苦役もない。ノルマもない。学習の痕跡がほとんど見られないのは、学習が苦役であるので、父が手を緩めた結果だろう。
彼らには充分な食べ物と安全な住宅がある。安楽で安全な生活が保障されている。
僕は生まれてから今まで、正確にはつい先ごろまで、その恩恵を享受し続け、何の不服もなかった。彼らは、その恩恵にもかかわらず、windowsを求める。恩恵自体がストレスであるかように。
彼らは外が恐怖の世界であることを知っている。体育館で、僕が見せたCGによって、パニックに陥ったではないか。なのに、あえて脱出を求めているのだ。
なぜそんな馬鹿げた願望を持っているのだろうか。
僕は様々な場合を想定してみた。可能性は一つしかないように思えた。
彼らはもともと外にいたのではないか? 外からここに拉致されてきたのではないか?
彼ら、というより、彼らの先祖が外に住んでいたからこそ、先祖代々の血に駆り立てられて、エクソダスを試みようとしているのではないか?
僕は父に提案した。
「僕の仲間にニンテンドーをつけてあげてよ。僕のように外に出てしまうこともありうるでしょ」
しばらく間を置いて父が答える。
「腕輪のボタンを押すことは出来ても、それと自分を襲ってくる生き物の反応との関連付けが出来ない。その生き物を操るなど問題外だ。残念ながらお前のように利口ではないのだよ。ところでタダヨシ、もう少し率直にしゃべりなさい」
「ごめんなさい。率直に言うよ。外に出してやれないの?」
「全滅の可能性があるな」
確かに、ニンテンドーを使えないなら、外の生活はほとんど不可能だ。だが、ただ一つ望みがあるようにも思った。
「彼らには集団戦術があるよ」
個々には無力で無知で愚かしいが、集団として行動した場合、大きな力を発揮しそうに思えた。知恵も出るような気がした。
「彼らを外の世界見学ツアーに連れて行ってよ。安全なハウスで一昼夜過ごさせてみて、あらためて外の実態を見せ、怖気づいたら今までどおり、それでもあえてと願うなら、思い切って外に出すというのはどうなの? このままだと仲間喧嘩を初め、ついには暴動を起こしかねないよ」
僕が彼らの願望実現の手助けをするのには訳がある。
作品名:ネヴァーランド 作家名:安西光彦