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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ルナティック・ハイ

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 そう言いながら弾切れになる前にリロードしていると、会長室に3人の男が飛び込んできた。
「会長!」
 と、叫んだ男が後頭部から脳漿を噴いた。
 銃弾はあと2発放たれ、すべて男たちの頭を貫通した。
 だんだんと死体の山が築かれてきた。
 だが、瑠流斗は不満そうな顔をしている。
「魔導関連の会社なら、それらしい戦闘法で来て欲しいものだね。例えば優秀な魔導士とか」
 会長室を出るとすぐに左右の廊下から、銃を持った男たちが駆け寄ってきた。
 男の数は5人。抜かれたオートピストルの数も同じ。ただし、撃たれた銃弾は数知れない。
 瑠流斗は構わず銃弾を全て躰で受けた。
「銃弾の無駄だよ」
 ゆったりとした動作で瑠流斗は銃弾を放ち、確実に狙いをつけて1人ずつ殺した。
 廊下は香で満たされ、静かな月のようなに瑠流斗は微笑んだ。
 このビルにいる者を皆殺しにしてやってもいいが、そこまで事を大きくして帝都警察を全面的に敵に回す必要もない。長居をすればビルを取り囲まれるだろう。
 瑠流斗は身を隠すことにした。
 屋上に出ると、猛烈な雨が降っていた。高度が高いこともあり、まるで雨は台風のようだ。
 瑠流斗は身を乗り出して隣のビルを見た。距離はおよそ15メートル、高度は10メートル下だろうか。助走をつければ瑠流斗なら飛べるだろう。
 助走をつけようと縁から下がったとき、真後ろで人の気配を感じた。
 吹き付ける雨に視界を奪われながら、瑠流斗はその男を見た。
 黒いスーツを着た男。服装は平凡だが鋭い眼と漲るオーラが、戦闘型だと物語っている。
 武器はなんだ?
 黒スーツは白い手袋を嵌めていた。そこに描かれる魔法陣。
 瑠流斗は紅い口で微笑んだ。
 先に攻撃を仕掛けたのは瑠流斗。リボルバーを抜いて通常の銃弾を放った。
 黒スーツはなにか呟き、小さな魔法壁を張る。銃弾は全てそれに弾かれてしまった。
 魔法壁が瑠流斗に向かって投げられた。瞬時にして盾が攻撃に転じ、フリスビーとなって瑠流斗に襲い来る。
 濡れたコンクリの床に飛び込み躱す瑠流斗。その一瞬に、撃ってない銃弾と空薬莢を全て抜いて、床を転がりながら呪弾を装填した。
 呪弾が放たれた。
 雨の中を呻き声が抜ける。
 黒スーツの踏ん張った足が水を四散させる。
 魔法壁が呪弾を受けた。中和されたように呪弾の呻きや叫びが消えた。
 再び放たれた呪弾もやはり防がれたが、次はすでに放たれていた。防いだばかりの魔法壁に、連続して呪弾が撃ち込まれる。
 しかし、結果は同じだった。
 黒スーツは無傷のまま。それに比べて瑠流斗の手は紫色に変色していた。腐っているのだ。驚異的な治癒力を持つ瑠流斗でさえ、強力な呪弾を使えば使うほど、呪いによって負傷して治りが遅くなる。
 中距離戦から瑠流斗は近距離戦に作戦を変更した。
 水を蹴り上げながら瑠流斗が駆けた。
 フリスビーが瑠流斗の肩を切った。通常の物理攻撃に比べ治りが遅い。
 瑠流斗は構わずそのまま黒スーツに向かっていく。
「ダーククロウ!」
 瑠流斗の手に宿る暗黒の爪。
 空かさず瑠流斗は次の魔導を詠唱する。
「シャドービハインド!」
 黒スーツの視界から瑠流斗が一瞬にして消えた。
 殺気は真後ろからした。
 振り下ろされる暗黒の爪を黒スーツは魔法壁で受けた。
 瑠流斗は笑った。ここまで敵がやるとは思わなかったからだ。瑠流斗は嬉しかった。
「人間にしては上出来だ」
 褒められた黒スーツは黙したままだった。おしゃべりは嫌いらしい。蹴りを放ってきた。
 相手の蹴りを腕で受けた瑠流斗が大きく飛ばされた。
 小さな水飛沫を上げながら瑠流斗は床を転がった。それでも瑠流斗は淡々と冷静に攻撃を見極めた。
「ふむ、靴になにか仕込んであるね」
 靴には魔石と呪文が仕込まれており、反発力が強くなる仕様になっていた。
 まだ地面に肩膝を立てている瑠流斗に向かって、黒スーツが1歩の跳躍で飛び掛ってきた。その距離は6メートル以上。通常、助走なしで飛べる距離ではない。
 空中からフリスビーが放たれた。軽い身のこなしでそれを避けた瑠流斗は地面を蹴った。
 黒スーツが地面に着地した直後に、瑠流斗はその懐に飛び込んでいた。
 魔法陣に描かれた手袋が拳を作った。対する瑠流斗のダーククロウ。
 リーチは黒スーツのほうが長い。
 瑠流斗の腹が強い衝撃によって抉られる。だが、瑠流斗はそのまま鋭い爪で、黒スーツの左胸を貫く……はずだった。
 ダーククロウは硬いなにかによって防がれ、パンチを受けた瑠流斗は後方に飛ばされていた。
 まるで焼けたように胸元が破れた黒スーツのワイシャツ。そこから覗く鋼色のプレートには呪文が刻まれていた。
 一方、瑠流斗の肌蹴たシャツから覗く腹には、紫色の痣がくっきり残っていた。さっきからやられてばかりだ。
 雨はより激しくなり、2人の男の全身を水浸しにする。
 瑠流斗は少し息を切らせていた。髪から滴った水が頬を流れ、息を吐く唇の真横を通る。いつもよりも唇の色が紅くなく、むしろ紫色がかっているように感じる。
 今殴られた腹の痣はおろか、切られた肩さえも治癒していなかった。
「雨の日は気分が滅入る」
 呟いた瑠流斗は敵に背を向けて走り出した。
 向かう先には隣のビルがある。
 逃げる瑠流斗を黒スーツは追った。だが、急に瑠流斗がビルの淵で振り返ったのだ。急に止まることができず、黒スーツはそのまま瑠流斗に飛び込んだ。
 瑠流斗は黒スーツの躰を受け流しながら、相手の腕を掴んで投げ飛ばした。
 宙に投げ出された黒スーツは断末魔をあげながら、数百メートルの地上に落下した。
 もう黒スーツの記憶は瑠流斗から抹消された。死んだ人間など興味がない。
 助走をつけた瑠流斗が隣のビルに飛んだ。まるで魔鳥のような飛空だ。
 瑠流斗はすぐに身を低くして、淵から身を乗り出して地上の様子を探った。
 警察が来ると予想されたが、それらしい車両も覆面パトカーもいないようだ。事を隠密にするために、通報されていない可能性もある。
 パトカーよりも早く、サイレンを鳴らして到着したのは救急車だった。どうやら殺したうちの誰かが搬送だれるらしい。
 しかし、ここで疑問が浮かぶ。
 確実に殺したはずだ。その場合、病院に搬送されるのではなく、警察の現場検証が先のはずだ。病死でなく殺人ならなおさらのこと。
 瑠流斗は屋上から地上に飛び降り、すぐに隠してあったオートバイに乗り、走り出す救急車の後を追った。
 あの救急車、なにか臭うのだ。