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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ルナティック・ハイ

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影踏み04 潜入


 遅い朝食の準備をはじめる瑠流斗。
 今朝は昨日の残りのカレーをパンに挿み、油で揚げたお手製カレーパンだ。それに玉子焼きとトマトジュースを加えて、朝食のセットメニューができあがった。
 昨日の夜からアリスはご機嫌斜めだった。そんなことなど気にする瑠流斗でもない。だから、そんなことになど触れず、他の話をはじめた。
「近いうちにここを引っ越すかもしれない」
「……どうしてですか?」
「君が捕まったから」
「…………」
「捕まった君を責めているんじゃないよ。君が捕まったということは、敵にここがバレているということだからね。また来られたら困る」
 朝食を食べ終え皿洗いをはじめた瑠流斗は、ため息を吐くように独り言を呟く。
「せっかく隣人が死んだのに、また引っ越さなければならない」
 瑠流斗の背後で椅子を蹴っ飛ばす音が聴こえた。
 振り向きながら神妙な顔をする瑠流斗。
「君ってそんなことする子だったのかい?」
「……わかりません。なぜか無性に蹴りたくなりました」
 アリスに蹴飛ばされた椅子は、見事に壁に当たって大破していた。椅子が飛んだ方向に、何もなかったのがせめてもの救いである。
 皿洗いを終えた瑠流斗は壊れた椅子を片付け、さっそく出かけることにした。けれど、今日はいつもの出掛けとは違った。
「行くよ、アリス」
「えっ、わたくしもですか?」
「ここに残してまた攫われたら笑い事じゃない」
「瑠流斗様のお仕事に同伴して、大丈夫でしょうか?」
「問題ないよ」
 心配の反面、なぜかアリスは気持ちが高揚した。まるでデートのような感覚。
 だが、アリスの期待は見事に裏切られた。
 貸し倉庫に連れて来られたアリスは『ここで待ってて』と言われたのだ。
 蛍光灯の明かりはある。空調もあり、エアコンもある。ただ、窓もなくとても静かな場所だった。こんな場所、まるで牢獄だ。
「嫌です」
 アリスは言った。
 しかし、瑠流斗は首を横に振った。
「駄目だよ。ここが君にとって1番安全なんだ」
「嫌です、絶対に嫌!」
「子供じゃないんだから、だだをこねるのはやめたほうがいいよ」
「子供じゃありません。でも嫌です!」
「なら電源を落とすよ、それでいいだろう?」
「それも嫌!」
「……わがままだなぁ」
 瑠流斗は難しい顔をしてしまった。
 ここが牢獄よりもマシな点は、物が多く置いてあることくらいだろう。だからと言って、それがアリスの気を引くものではない。
 数台の車とオートバイ、ハンドウェポンの類……ここは主にそう言った物の倉庫だった。
 瑠流斗はアリスとの話を諦め、デュアルパーパスバイクのエンジンを掛けていた。
「行っちゃうんですか?」
 機械人形なのに憂いを含んだ表情でアリスは瑠流斗を見ていた。
「仕事だからね」
「本当にわたくしをここに置いて行く気ですか?」
「そんなになにが嫌なんだい?」
「独りでいるのが嫌なんです」
「いつもアパートで独りじゃないか」
「違います。テレビだってあるし、外から聞こえる声、窓から景色だって見れます」
「車のカーナビはテレビも見れるから、エンジン掛けようか?」
「……瑠流斗様、大ッ嫌いです」
 ぷいっとアリスはそっぽを向いてしまった。
 その隙に瑠流斗はオートバイを走らせ倉庫を出た。
 リモコンで閉まるシャッターの向こうで、アリスは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
 瑠流斗はシャッターが閉まるのをいったん止め、腕にしていたシルバーアクセサリーを外し、アリスに向かって投げた。
 見事にアリスはキャッチに失敗したが、瑠流斗は何も気にせずこう言いながら再びシャッターを閉めはじめた。
「ボクの代わりだよ。きっと君を護ってくれる」
「……瑠流斗様」
 シャッターは完全に閉められた。
 オートバイはエンジンを吹かしながら、雨の街を駆け出した。

 瑠流斗が向かったのは影山物産株式会社の本社ビルだった。影山源三郎氏が隠居して、近々社名が変更になるとの噂だ。
 目深に帽子を被り、作業服の胸にはIDカード、瑠流斗は清掃員に扮装して社内に忍び込んでいた。
 消耗品をカートで運びながら、瑠流斗は何食わぬ顔で廊下を進んだ。
 途中でカートを階段のフロアに置き捨て、階段を上ってさらに先を進んだ。
 会長がいるフロアには、直通のエレベーターを使うか、もしくは専用階段から行くしかない。
 専用階段に入る前には厳重に鍵の掛かった扉があった。
 瑠流斗はポケットからカードキーを取り出し、プッシュ式のボタンを押して暗証番号を入力した。全て手はずどおりだった。
 階段を慌てることなく登り、フロアに出てすぐに瑠流斗は通常の銃弾を放った。
 2発連続で放たれた弾丸は見張りの男2人の脳を貫いた。
 すぐに瑠流斗は天井の防犯カメラを撃ち抜いた。
 ここからは全速力で駆ける抜ける。
 風が吹くように廊下を駆け抜け、会長室の前に立っていた2人の男を銃弾で仕留め、そのままドアを蹴破った。
「動かないでもらいたい」
 すでに銃口は影山雄蔵に向けられていた。おそらく昨日の朝にあった偽者だろう。それでも瑠流斗には構わなかった。
 偽雄蔵は怯えきった様子で後退りをした。
「どうやってここに……このフロアは特別な人間しか……」
「この会社のシステムと、警備会社のシステムにハッキングさせてもらったよ。偽造ID、偽造カードキー、暗証番号も全て記憶させてもらった」
「そんなバカな……」
「バカなと言われても、現にボクはここにいる。ところで、機械人形は返してもらったけど、ハードディスクがまだだ」
 まだ下ろされていなかった銃のハンマーが下ろされた。あとは引き金を引くだけだ。
 偽雄蔵の顔から大量の汗が噴出した。今にも脱水症状で倒れそうな、蒼白い顔をしてわなわな唇を震わせている。
「ハードディスクはここにはない」
「どこにあるんだい?」
「この会社の中にはある。専門の部署でパスワードの解析中だと聞いた」
「ふむ、まだ中身を見れていないのか、残念だ。ならいいことを教えてあげよう。あのハードディスクはダミーだよ、しかも間違ったパスワードのダミーも用意してある。間違った方法、もしくは無理やり中身を見ようとすると、ウイルスが作動する仕組みになっている」
 そして、瑠流斗は銃を撃った。
 弾は偽雄蔵の腹を貫いた。
 腹を押さえて蹲る偽雄蔵の顔に苦悶が浮かぶ。
「こ、殺さないで……くれ……」
 すぐに病院に運べば助かるだろう。
 しかし、誰が病院に連絡をする?
 瑠流斗は微笑んだ。
 再び銃声が鳴り響いた。
 今度は偽雄蔵の太腿が血を噴いた。
 銃弾をリロードしながら瑠流斗は淡々と言う。
「実はね、とてもボクは機嫌が悪い」
 リロードを終え、銃弾が連続して放たれた。
 無事だった脚の膝が打ち抜かれ、両手首も撃ち抜かれた。
「部屋が荒らされたことも腹が立つが、アリス君が攫われたと知った瞬間、この喧嘩を買うと決めたよ」
 躰中を撃ち抜かれながらも、偽雄蔵は這いつくばって逃げようとしていた。
「逃がさないよ」
 銃弾が偽雄蔵の背中を貫いた。当たった場所は心臓ではなかったが、まったく動く気配を見せない。
「……しまった、間違って殺してしまった」