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リミット

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「ええ、あなたは、幸一さんにとって三年後に再会した理美なのよ。あなたは、相当きつい思いをして、今そこに戻ってきたわけでしょう? 私には分かっているつもりよ」
 未来の声が涙声に変わっていた。
「ちなみに、私はここでは、『ミック』って呼ばれているの。この時代は名前をカタカナにする必要があるからね」
「私は何になるのかしらね?」
「あなたは、『リミット』よ。それは、今のあなたに限界があることを示しているわ。ただ、その限界も、あなたが限界という意識を持つことで克服できる。だから私はあなたに言いたいの。意識した限界から先を、あなたの力で切り開きなさいってね」
 理美は、自分が幸一のことを好きだということを意識していた。だが、自分が彼の子供ではないかという意識から、一歩踏み出すことができなかった。だが、今はそんなことは関係ない。親子であったらどうだというのだ?
「自分と幸一さんの子供が自分になるということになる」
 ということだが、それも、この世界の理美も、子供として生まれてきた理美も、存在している世界には、その人しか存在していない。だから、パラドックスが存在しても、あってはいけないことだとは思えない。
――そのための『ダミー人間』だったのかも知れないわ――
 パラドックスを正当化させるために、理美の時代に存在した『ダミー人間』、それを否定できるのは、その時代に、もう一人の自分が存在しているか存在していないかということの方が重要なのだ。それが科学では解明できない部分のパラドックスを解明させるカギになることを、理美は知った。
 電話を切った理美は、急いで幸一のいる場所に戻った。
「幸一さんが手を広げて待っていてくれる」
 そう感じただけで、胸にこみ上げてくるものがある。
「これが恋なんだわ」
 と思い、目の前にいる幸一に飛びついた理美。目を瞑り唇を重ね、幸一に身を委ねる。
 気が付けば二人は、すすきの穂が揺れる風が吹き抜ける高原にいた。
――これが時間の歪みなのかしら?
 漠然と感じた理美は、そのまま身体の力が抜けていくのを感じた。
 すると、その奥に大きな門が見えた。門の前には一人の門番がいる。理美と幸一に気付いているようだが、目はあくまでも、こちらを見ようとしない。
 理美の顔を見ている幸一が微笑んだ。理美は身体が宙に浮いている感覚から、指先の痺れを思い出させた。そして次の瞬間、目の前にいて、抱きしめてくれていた幸一が忽然と消えた。
「幸一さん、どこ?」
 理美は、身体の力が抜けてくるのを感じ、同時に気だるさが襲ってきた。まるでボロ雑巾になったような惨めな気分にさせられ、しばし、空間を彷徨っているのを感じた。
 だが、それも長く続くことはなく、気が付けば、どこかの部屋の前に放り出されていた。
 見覚えのあるところだった。理美は思い出そうとしたが、部屋のこと以外でも、いろいろな記憶が欠落しているのを感じた。
――どうしたのかしら?
 そう思っていると、目の前に、一人の男性が立っていた。
 彼は。
「信じられない」
 と言わんばかりに目をカッと見開いていたが、次の瞬間には、涙目になっていた。それは懐かしい人を見つけたかのようだった。理美も嬉しくなって、何とか憔悴した身体で微笑むことができた。
 そして、何とか声を出せるような気がして、声を出そうとしたのだが、第一声は、なかなか出てこない。
 そして、やっと声が出せるようになったかと思うと、出てきたのは、
「私、行くところがないの」
 という言葉を絞り出すのがやっとだった……。

                  (  完  )



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作品名:リミット 作家名:森本晃次