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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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機械人形アリス零式

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失なわれしアリス〜そして、ルナティックハイへ〜06


「アタシ……じゃない、わたくしじゃない!」
 アリスは叫んだ。
 無色透明な液体を満たしたガラス管の中に浮かぶ少女の姿。
 シュヴァイツはガラスに触れようとした、そのとき!
「止まりなさい!」
 凛としたセーフィエルの声がシュヴァイツの動きを封じた。その後ろから片方の翼を失った彪彦がゆっくりと歩いて現れた。
「ほう、やはり保存されておりましたか。シュヴァイツさんその場で待機ですよ。セーフィエルさんがおかしな行動を取りそうになったら、躊躇わずにその装置を破壊しなさい」
 その発言にセーフィエルは漲る殺気を発した。
「そんなことさせませんわよ」
 だが、セーフィエルは動けずにいる。
 シュヴァイツは困った顔をした。
「アリス君のそっくりさんを破壊するなんて本意じゃないなぁ。でも上司の命令だからね。けど影山さん、もしかして最初からこれが狙いだったのかい……ここにいる?アリス?を人質にすることが」
「もちろんそうですよ。機械人形では押しが弱いですからね」
「酷い人だ。ねえアリス君、僕はそんなつもりでここに来たんじゃないからね、本当に興味本位だっただけだから信じて欲しいな」
 視線を向けられたアリスは視線を返さず、眼を瞑り声すらも届いていないようだった。
 個々の存在、別の人格を持つ違う存在、たとえ記憶をコピーされた存在だったとしても、己は己だとアリスは思っていた。記憶を取り戻したときに、そのことを確認したはずだったのではないか。
 しかし、本物の?アリス?を目の前にして、すべて脆くも崩れ去った。
 ――自分はいったい何者なのか?
 彪彦はセーフィエルの横を堂々と抜けて、シュヴァイツの横、ガラス管の前まで移動した。
「一時休戦としましょうセーフィエルさん。とは言っても人質は解放しませんが」
 セーフィエルは苦虫を噛み潰したような顔をした。
 彪彦の口から吐き出された〈彪彦〉がガラス管に手を触れた。
「これが貴女の妹ですか……。やはり死んでいる、しかし実に興味深い。わたくしの言わんとしていることはわかりますよね、セーフィエルさん?」
「……わからないわ」
「貴女ほどのヒトが成し遂げられない理由。なぜこの娘が蘇ることができないのか? わたくしも不思議で堪りませんでした」
「何が言いたいのかしら?」
 おそらくセーフィエルはわかっている。だが、ここはあえて自ら口にしない。
 シュヴァイツは不思議そうな顔で〈彪彦〉を見ていた。
「僕にはさっぱり。ぜひ詳しく知りたいね、おそらくアリス君もそう思っているよ」
 そのアリスはガラス管の前に立ち、ただじっと俯いたまま動かない。先ほどからそのままだ。今なされている話も耳に入っているかわからない。
 しばらく間があった。
 その時間はセーフィエル、アリスの胸を揺さぶるに十分な時間。
 次に口を開けるのが誰か皆、わかっている。視線を向けられた〈彪彦〉はサングラスの下の口を歪ませた。
「ではわたくしが説明いたしましょう。まずはじまりは〈聖戦〉ののちに消えたセーフィエルさんの行方です。誰もが霊魂すら滅びたと考えておりましたが、ある日突然、貴女は表舞台に再び現れた。そうです、人間としての魔女セーフィエル。なぜ貴女が人間となったのか、人間としての貴女の背景はどのようなモノか、おそらく貴女が情報の多くを抹消したせいで、調べるのに苦労をいたしました。そしてようやくアリスさんまで行き着いたわけです。
 我々は死亡しているアリスさんの降霊を試みました。わたくしどもの組織でももっともそれを得意にする者にもやらせましたが、結果は何も起きず。生命は死した後、霊体としてこの世界の近くにおりますが、しばらくすると降霊では呼び出せぬ場所へ逝ってしまいます。アリスさんの場合もそれに当てはまるのか、だとしたら黄泉返りは不可能。アリスさんを復活させるには、同じ記憶を持つ偽物を作るしかない。それしかこの世にアリスさんを存在させる道がない」
「それがアリス君と言うわけかい?」
 シュヴァイツの問いに〈彪彦〉は嬉しそうな顔をして、首を大きく横に振った。
「正解ではありますが、完璧な回答ではありませんね。確かにアリスさんは、そう言った過程で作られたコピー品です。しかし、これはおそらく試作か実験、更なる段階がありますよね、セーフィエルさん?」
「…………」
「今から申し上げる点がもっとも重要です。ここにいる本物アリスさんは医学的には死亡していますが、霊的にいうとまだ死んでおりませんよね?」
 生と死、輪廻転生、霊の進化。
 生命は死を迎え、肉体を離れアストラル体となる。それが幽霊と呼ばれるもので、この世界に多く干渉してくる存在。降霊によって呼び出せる存在だ。
 アストラル体はそこからさらなる次元へ旅立ち、エーテル体となる。人々が住むこの世界とは別の世界に存在するが、交霊によって意志を交わすことは可能だ。
 やがて霊はさらなる次元へ旅立ち、人間が手を出せない場所へ逝ってしまう。もしもそこにアリスの霊が逝ってしまったら、もう黄泉返りは不可能となる。
 彪彦の言う『死んでいない』とは何を示す言葉か?

「この本物のアリスさんを見て、確信してしまいましたよ。そうですアリスさんは死んでいない。魂魄はまでその躰の中で眠っている。アストラル体となっていないモノを、生命が死んだとは言えません。そうですよねセーフィエルさん?」
 これで尋ねたのは何度目か。その問いに対してもセーフィエルは口を開こうとはしなかった。
 不意にアリスが瞳を開けた。その瞳に映る?姉?の姿。
「わたくし……アタシは今も姉貴を拒み続けてる。だから自分の殻に閉じこもって、アンタの好きなようにはさせない、わかるでしょ!」
 明らかに違う。アリスであってアリスでない。
 驚いてシュヴァイツは口をぽかんと開けてしまった。
「大丈夫かいアリス君、君らしくない」
「アタシはアタシだし。言うことを利かないアタシが疎ましいから、記憶をロックしてたんでしょ。じゃあなんでアタシを生き返らせようとしたの、アンタの自己満足のため人形ってわけ!?」
 取り乱した冷静ではない態度でアリスはセーフィエルに詰め寄った。
 セーフィエルを知る者なら、その行動に驚きを隠せないだろう。
 夜のように佇み、闇のように全てを呑み込む。敵を前にして決して物怖じすることないセーフィエルが、後ずさりをしたのだ。
 〈彪彦〉は無機質な表情した。
「人間に転生する前の貴女を知っているわたくしからは、とても信じがたいことですが、貴女は人間となって弱くなった。以前の貴女は何かを何し遂げるためにはどんな犠牲も払う人であり、肉親すら悪魔に捧げるようなひとでした。それが今はどうですか、死んだ妹に執着し、目の前の亡霊にさえ物怖じしている」
 アリスがセーフィエルの胸倉を掴んだ。
「アンタの自由にはならないからな!」
「イヤぁぁぁッ!!」
 我を失いセーフィエルはアリスを突き飛ばし、怯えたようにその場に頭を抱えてうずくまってしまった。
 アリスは尚もセーフィエルを責め立てようと近づこうとしていた。その足が不意に浮き上がった――何かに吸い込まれるように。