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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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機械人形アリス零式

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「貴方のほうがよっぽど可哀想ですがね」
 二人が言い争いをしている間にアリスは先に進んでいた。
 慌ててシュヴァイツが踏み出そうとしたが、絵柄に足を付けそうになってピタッと止まった。
「5枚のタイル……スペードのエースだけど……アリス君どこを踏めばいいか教えてくれるかな?」
「最初は1ペア、次は2ペア、スリーカードと順番に踏んでください」
「遊び心があるね」
 1列目と2列目に共通した数字は?1?だった。
 彪彦はシュヴァイツの肩に留まった。
「これで空を飛ぶことにならないでしょう」
「人の肩借りるなら、お願いくらいするべきだよ」
「ではよろしくお願いします」
「はいはい」
 シュヴァイツはスペードのエースを踏んだ。次にハートのエース。
 順調にタイルを踏んでいく。
 いち早く扉の前まで来たアリスは次の部屋に消えてしまった。
「アリス君、置いていくなんて酷いなぁ」
 急いでシュヴァイツはアリスの後を追った。
 最後のロイヤルストレートフラッシュ。
「止まりなさい!」
 突然、彪彦が声を荒げた。
 が、遅かった。
 シュヴァイツはタイルを踏み、
「何も起きないけど?」
 と、不思議な顔で尋ねた。
「そのタイルはフェイクですよ、残りの列の数を数えてください」
「踏んでもトラップは発動してないけど?」
「まだ間違った数字を踏んでいないからですよ。でもご覧なさい、残りの列はいくつですか?」
 残る列は2列。踏んだタイルは?ハートのQ?と?ハートのJ?の2枚。
 シュヴァイツはハッとした。
「イカサマじゃないか!」
「違いますよ」
「だって1枚足りないじゃないか」
「残る1枚は目の前の扉なのですよ、ちゃんと見てください」
 扉に描かれた道化師の絵。よく見ると?JOKER?とは掛かれておらず、?J?とのみ、そして道化師の心臓の位置に?ハート?のマーク。
「やっぱりイカサマじゃないか!!」
 シュヴァイツは口に手を当てて難しい顔をした。
 次のタイルは?ハートのキング?で間違いないが、問題は最後のタイルだ。
 一歩進みシュヴァイツは足を止めた。
「踏んだらどんなトラップが発動するんだろうね。興味があるけど、やってみたいとは思えないな」
「この位置からまず扉を破壊して、一気に中に飛び込むというのでどうでしょう?」
「頑張ってジャンプできない距離ではないけど、トラップがどんなモノかわからないからね」
「しかしここでじっとしているわけにはいかないでしょう?」
「それもそうだね」
 変形した〈鉤爪〉をシュヴァイツは装備して、放たれた魔弾が扉に撃ち込まれた。破壊された扉の破片が先にいたアリスの躰に降り注いだ。
 アリスは眼を丸くしている。
「どうしたんですか?」
「扉が故障したみたいで開かないものだから、仕方なく壊したんだよね、彪彦さん?」
 助け船をシュヴァイツは出したが、ばっさりと斬られた。
「いいえ、貴方がミスをしたせいですよ」
「またまたぁ〜、僕のせいにしちゃってさ。この際、どちらに非があるか争ってないで先を急ごう」
 一歩足を後ろに引いて、勢いをつけてシュヴァイツが飛んだ。
 天井から降り注ぐ雨のような槍。
 間一髪でシュヴァイツは次の部屋に飛び込んだ。
「ふぅ、串焼きになるところだったね、影山さん?」
「ええ、誰かのミスのせいで」
「そうそう誰かさんのせいでね」
 と、チラッとシュヴァイツは彪彦に視線を向けた。まるで他人事。
 鴉に戻った彪彦はシュヴァイツと距離を開けた。もう関わるのも疲れたと言った感じだ。
 廊下はまだ続いていた。
 アリスは歩こうとしない。
「記憶ではここが祖父の隠し部屋だったんですけど、こんな廊下見たことがありません」
「君がすべての記憶を持ってるわけじゃないと思うけどって、言ったかな言わなかったかな?」
 シュヴァイツの推測が正しいかもしれないが、本当にこんな廊下などなかったのかもしれない。
 廊下に変わった様子はなく、床にタイルなどもない。遠くには次の部屋に続く扉がある。
 不審に思いながらも先を進む。
 10歩も歩かぬうちにそれに気づいた。誰も口に出さずとも答えがわかる。扉との距離が縮まらないなのだ。
 夜風が廊下を吹き抜けた。
 それを合図に振り返ったアリス。
「姉貴……」
 意識せずに出てしまった呼び名。
 慌ててアリスは言い直す。
「セーフィエル様」
 そう、そこに立っていたのは夜魔の魔女セーフィエル。夜のような漆黒のドレスを身に纏い、静かに静かにそこに佇んでいた。
「枷が外れてしまったのねアリス……こんなところにまで来るなんて」
 冷徹な瞳は彪彦を見据えている。『貴方の仕業ね』と言わんばかりの瞳だ。
 彪彦は口から〈彪彦〉を吐き出し、穏やかに戦いの準備に備えた。
「お早いお着きですねセーフィエルさん。ちょうど良かった、この先の部屋まで案内してもらえませんかね?」
「引き返すなら今のうち、さもなくば死を超越した苦しみを与えるわ」
「交渉決裂ですか……では、シュヴァイツさん〈リピートラビリンス〉を解くので頼みますよ!」
 〈彪彦〉の口から怪音波が発せられ、空気が激しく振動した。
 視界をも揺らす音波の力は、そこに張られていた結界を破壊した。
 シュヴァイツが扉に向かって走る。それを追うアリス。さらにセーフィエルも地面を蹴り上げた刹那、黒い壁が目の前に立ちふさがった。
 壁の向こうから彪彦の声が聞こえる。
「追わせはしませんよ」
「小賢しいわ」
 セーフィエルの手のひらに力が込められ、黒い壁が消し飛んだ。その先で待ち受けていた網。
 粘着性のある網がセーフィエルの全身を捕らえた。
「これでわたくしを捕らえたつもり?」
 躰を包む網が酸で掛けられたように煙を立てながら溶けていく。網から抜け出すなどセーフィエルにとって造作ない。
 しかし、その僅かな時間稼ぎが命運を分けた。
 すでにシュヴァイツは扉を破壊して奥の部屋へ。
 そして、アリスも――。