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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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機械人形アリス零式

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失なわれしアリス〜そして、ルナティックハイへ〜05


 地下は暗闇かと思いきや、ところどころ明かりが灯っていた。
 螺旋階段を下りると池を渡した橋に続いていた。天井から落ちた水はすべてこの池に落ちる

 シュヴァイツは鼻に香る何かを感じた。
「う〜ん、磯の匂いがするね」
 もしかしたらこの池は海に繋がっているのかもしれない。
 橋の先には扉があった。岩でできた頑丈そうな物だ。
 アリスの足が扉の前で止まった。そこから次の行動を取る様子を見せない。
「一族の者だけが開けられる扉だそうです。わたくしに開けられるとよいのですが……」
 扉には取ってのようなモノはない。そこにあるのは刻まれた文字。現存するどの言語にも当
てはまらず、どの魔導書にも記されていない文字。
 アリスはその文字を読み上げた。
「ひらけごま」
 後ろにいたシュヴァイツは呆気に取られた。
「それマジなのかい? 考えた人のセンスを疑うね」
 ギャグで当てずっぽうに言ったら当たりそうな呪文だ。こんな呪文で扉が開くとは……開かない?
 アリスは踵を返して振り向いた。
「無理なようです」
 すぐさまシュヴァイツからツッコミが入った。
「呪文が間違ってるんじゃなくて?」
「いいえ、合ってます絶対に」
「あんな呪文が正解のわけがないよ」
「わたくしが間違ってると言いたいんですか?」
「そういうことが言いたいんじゃなくてさ、思い違いとかあるだろ」
「そんなことありません。もう記憶は取り戻しましたから」
「取り戻した記憶がセーフィエルの妹の記憶すべてとは限らないだろう?」
「でも……」
 二人が言い合っている最中、彪彦は池の上を飛び回って何か感じているようだった。
「池の水が揺れてますね。それもだいぶ激しいようですが?」
 その指摘の直後、彪彦は上がった水飛沫の中に姿を消してしまった。
 霧のように舞う水の粒の奥に巨大な影が見える。
 その姿を確認できたときには、アリスとシュヴァイツは池の中に落ち、この部屋が大きく揺れていた。
 池は思ったよりも深い。
 水面からシュヴァイツが顔を出し顔に張り付いた前髪を掻き上げた。
「いきなり頭突きなんて、おかげでずぶ濡れだよ」
 シュヴァイツの視線の先、そこには巨大な額を持った小型鯨のような怪物がいた。あの頭でいきなり突進してきて、アリスとシュヴァイツはかろうじて避けたが池に落ち、激突した壁が大きく地鳴りを起こしながら揺れたのだ。
 その怪物のシルエットは一見して鯨のようであるが、皮膚は堅そうな鱗で覆われている。
 橋は壊され、上がれる陸地もないが、螺旋階段はまだ天井まで続いている。逃げ場はそこだけか?
 天井近くにはいち早く避難した彪彦が羽ばたいていた。
「長らく使われていない間に、海の怪物が棲み着いたと考えるべきか、それともここで飼われていたのか? ところでアリスが沈んでしまったのですが、自力で上がって来れないでしょうから、どうやって引き上げましょうか?」
「僕か君のどっちかがやるしかないだろ!」
「わたくしは水が苦手ですから困りましたねぇ」
「僕だって非力な人間だよ。たとえ水の中とはいえオートマタを抱えて泳げるハズがないからね。ところであの怪物はどこに行ったのかな?」
 最初の突進以降、すぐに姿を消してしまった。水面に姿がないということは水中であることは間違いないが?
 そのとき!
 魚雷のように水中を猛スピードで怪物が水面に迫り、そのまま天井高くまで飛び跳ねた。
 アリスだ!
 怪物の頭にアリスがしがみついている。
 再び怪物が水面に落ちる前にアリスは螺旋階段に飛び移った。
 彪彦がすぐさまアリスの元へ羽ばたいた。
「これを装備してください!」
 彪彦の躰が変形する。〈鉤爪〉だった。
 ひとり池に残されたシュヴァイツに怪物が突進しようとしていた。
「僕のところ来るよ、これって弱いもの虐めだろ?」
 言葉は余裕だが、置かれている状況は一刻の猶予もない危機。
 アリスは〈鉤爪〉を構えた。
 大きく開かれる嘴。
 大の大人を呑み込むほど特大の魔弾が発射された。
 背中に魔弾を喰らった怪物が飛沫を上げながら水中に沈んだ。
 高波が壁を打ち付け、シュヴァイツの姿も消えた。
 怪物もシュヴァイツも、どちらも水面から顔を出さない。
 やがて穏やかになる水面。
 彪彦は鴉の姿に戻り、池の上を飛び回った。
「あの程度で死ぬような人ではありませんし、もし死んだのならばD∴C∴の6=5の階位は剥奪、団員としても問題アリですね」
 水の中でなにか動きがあった。
 水中から巨大な影が浮いてくる。再び怪物が襲ってくるのか。いや、様子が可笑しい。
 確かに上がって来たのは怪物であった。だが、怪物は水面で上下しながら揺れているのみ。
ただ浮いているだけという表現がしっくりくる。気を失っているか、あるいは死んだようだ。
 しばらくして怪物の口がゆっくりと開き、鋭い牙の間から人間の手が出た。
「怪物に喰われるなんて人生ではじめてだよ、ったく」
 無事な様子でシュヴァイツは苦笑いを浮かべ、怪物の口の中から這い出てきた。
「影山さん、早く僕も螺旋階段まで運んでくれないかな?」
 螺旋階段まで運んでもらったシュヴァイツはジャケットを脱いで、ぞうきんのように力一杯に絞った。
「できれば今すぐシャワーを浴びたいね」
 濁った水が絞られたジャケットからボトボト垂れる。
 螺旋階段から続いていた橋も壊され、扉の前に行くことも容易ではなくなった。
 しかし、思わぬことが起きていた。
 扉が破壊されていたのだ。そう、怪物の頭突きで壁が崩れ、扉までもが破壊されてしまったのだ。今さらながら、あの頭突きをモロに喰らっていたかと思うとゾッとする。
 彪彦は脚をアリスとシュヴァイツに向けた。
「さて、先に参りましょう」
 突きだした脚に掴まれということだ。
 シュヴァイツはうんざりしながらも彪彦の脚を掴んだ。
 二人を乗せ彪彦が大きく羽ばたく。そのときに飛んだ水がシュヴァイツの顔にかかった。
「もっと静かに羽ばたけないかな?」
「文句を言うなら落としますよ?」
 淡々と脅しを掛けてくる彪彦。
 すでに足は池の上。
「レディの顔に水を引っかけるなんて失礼だろ。だから言っただけさ」
 シュヴァイツの言葉はあからさまに嘘くさかった。
 飛行時間は短いものだった。すぐに扉の奥についた。
 長い廊下がまっすぐ続いている。道幅は乗用車が通れるほど大きく、ここも明かりが灯っていた。
 先を歩こうとしたシュヴァイツの腕をアリスが引っ張った。
「おっと、なんだい? ああ、レディファーストだったかな?」
「いえ、仕掛けがありますから気をつけてください?」
「仕掛け……本当だ、床に絵柄があるね。実は気づいてたけど、ただの模様かなって」
「順番取りに踏まないと死のトラップが発動します。空から飛び越えようとしても駄目ですから、気をつけてください」
 と、視線を向けられたのは彪彦だ。
「わたくしなら心配ご無用ですよ。シュヴァイツさんとは違いますから」
「僕と違うって言い方、明らかに差別だよね。傷つくなぁ、仲間意識にかけるっていうのかな。そういえば影山さんて単独任務多いよね?」
「それが何か?」
「友達少ないんだね、可哀想に」