小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

機械人形アリス零式

INDEX|3ページ/35ページ|

次のページ前のページ
 

アリス観光ガイド02


 仕事の休憩時間になった夏凛はさっさと事務所を出た。理由は同僚のおばちゃんたちに食事に誘われるのを防ぐためだ。
 昼休みは手短に隣のウェストビルの飲食街へ赴く。イーストビルにも料理店があるが、ウェストビルには遠く及ばない店舗数だ。
 清掃会社の制服から、いつものゴスロリに着替えた夏凛は。50階の連絡通を歩きながら、今日はなにを食べようと考えていた。
 しかし、事件は突然起きた。
 警報アラームが鳴ってもいないのに、連絡口とビルとの出入り口のシャッターが下りたのだ。
「なんなの、故障?」
 夏凛は露骨に嫌な顔をして元来たイーストビルへと足を運んだ。しかし、イーストビルへの出入り口もシャッターが下ろされ、出入り不可能になっていた。
 それだけではなかった。連絡通路に設置された緊急用のエレベーターも稼動していない。
 閉じ込められたことを悟った夏凛は、慌てず騒がずその場で待機することに決めた。なんてことはなく。こんな事態にその場で待機しているような玉ではなかった。
 夏凛はすぐさま腕時計型ケータイの短縮ダイヤルを押した。周りの人々がケータイが繋がらないといっている中、夏凛のケータイはすぐに繋がった。職業上、電話会社との契約内容が一般人とは違うのだ。
「もしもし真クン?」
《緊急事態で忙しい。要件は手短にな》
 夏凛が電話をかけた相手は、ウェストビルに事務所を構える情報屋――真だった。
「ツインタワーの50階の連絡通路に閉じ込めれちゃった」
《ツインタワービル全ての防御機構が作動したようだ》
「真くんなら解除できるんじゃないの?」
《結論から言うと、大変難しい状況と言えるな》
「このビルの制御を乗っ取るくらい簡単じゃないの? この世の全てのコンピューター情報を操作できるって自負してるんからさぁ」
 真は元サイバーテロリストであり、闇の世界ではトップクラスの実力を持っていた。そんな真だが、10年ほど前から情報屋に転進し、今では帝都一の情報屋として名が知られている。
《こちら側で停電が起きた。そのためイーストの制御システムへアクセスが不可能になった》
「うんうん」
《ウェストは外部からのアクセスを完全にシャットアウトしたらしい。向こうも停電なのかもしれん》
「でもさぁ、ここ電気ついてるよ」
 連絡通路の電気はついていた。しかし、緊急用エレベーターは作動していない。
《その場所の制御はビルの外にあるコンピューターで行われている。ツインタワーはメインからの制御と、各ビルでの制御ができるシステムになっている》
「うんうん」
《その場所に緊急用エレベーターがあるだろう。それでさっさと脱出しろ》
「エレベーターが騒動しないんだよね」
《なに? 電気がついているのにエレベーターが動かないということは、メインコンピューターも何者かによって制御を奪われたらしいな》
「もしかして、ずっとここに閉じ込められたまま?」
《少し待っていろ。今メインにアクセスして――メインがネットワークから遮断されている》
 真は夏凛と話しながらメインコンピューターにアクセスをしたが、メインコンピューターに外部からアクセスできない。外部とのネットワークを自主的に切断したか、あるいはコンピューターの故障だろう。
「うっそ〜ん、やっぱり閉じ込められたままなのぉ?」
《救出部隊が来るのを待つんだな。それでも外壁を壊すのにだいぶ時間を要するだろう。防御システムの稼動したツインタワービルは要塞だからな》
「これがテロだった場合はビル内の人質を楯に救出が遅れるね」
《まったくだ。30時間以内にイーストの電気が普及しなければ、私の生命維持装置の予備電源がストップする》
「あらら、それは大変」
 まさに人事のようにいった夏凛は、ケータイの通話を切った。真が約に立たないとなると話していても時間の無駄だ。
 連絡通路には多くの人が取り残されていた。
 イーストビルとウェストビルは、店舗の内容がまったく異なるために行き来する人は少ない。それでも昼時となると、イーストからウェストへの移動人数が増えるのだ。今はまさにその昼時であった。
 先ほどから連絡通路にいる人の人数が増えてきたように思える。きっとここにある緊急用エレベーターが目当てだろう。
「エレベーターは止まってるってゆーの」
 夏凛は小声で吐き捨てて、人ごみを縫うように辺りをうろちょろしはじめた。すると、その背中に何者かが声をかけた。
「夏凛様」
 呼ばれて後ろを振り向くと、そこにいたのは機械人形アリスだった。
「やっほ〜、アリスちゃんにこんにちわぁ。こんなところで会うなんて奇遇だね!」
 急にテンションを上げて夏凛はアリスに駆け寄った。夏凛の外面はかなりいいのだ。
 駆け寄って来た夏凛にアリスは横にいる青年を紹介した。
「こちらにいらっしゃるのは草太様です。この方に帝都の観光案内をしている最中でございます」
「観光案内?」
 頭にハテナマークを飛ばす夏凛を察して、アリスがすぐに補足する。
「バイト中でございます」
「アリスちゃんがなんでバイトなんかしてるのぉ?」
「マスターの元で奉公しているだけでは、お金は溜まりませんから」
「マナちゃんにお小遣いとかもらえないの?」
「必要以外のお金は一切くださいません」
「アリスちゃんも大変なんだねぇ。よかったらアタシのとこ来ない? 給料ちゃんと出してあげるよ」
 世間話をする二人の間に草太が割って入った。
「そんな話してないで早くここから脱出しようぜぇ」
 一瞬に素を見せて夏凛は草太をにらんだが、周りに気づかれる前に笑顔になった。
「逃げれるもんならとっくに逃げてるよ。緊急用エレベーターは作動してないし、両方のビルもシャッター下りてて入れないしさぁ」
「そんじゃさ、完全に出れないってことかよ?」
「そうなるかなぁ」
 笑って答える夏凛から顔を逸らして、草太はアリスの方を振り向いた。
「どうにかなんないの?」
「どうにもなりませんわ」
 アリスは首を横に振るだけだった。
 ケータイの着信音が鳴った。流行のバンドの曲だ。ケータイは夏凛のもので、彼はナンバーディスプレイを見てケータイに出た。
「もしもし、もう話すことないだけど」
《助けに来て欲しい》
 通話の相手は真だった。
「なんで助けに行かなきゃいけないの?」
《ただでとは言わん。取って置きにモノをやろう》
「モノってなぁに?」
《―― でどうだ?》
 真の提示したモノを聞いた夏凛は顔を紅潮させて、ついでに鼻息まで荒くしてテンションをマックスにさせた。
「いくいく、助けに行っちゃう!」
 夏凛をここまでにさせるモノとはいったいなんだったのだろうか?
《地下1階にある主電源を入れて欲しい。そうすれば、イーストの内部システムにアクセスが可能になり、おまえも脱出できることになる》
「オッケーオッケー。でもさぁ、アタシここから出られないんだけど?」
《主電源がある地下1階は、連絡通路のあるエレベーターから行くことができる。そこから頑張って行くんだな。とにかくイーストに電気を取り戻してくれたら、さっき言ったモノをやろう》
「絶対いく。絶対に助けに行ってみせるから。それじゃね、バイバーイ」