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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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機械人形アリス零式

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 ミナト区はホウジュ区から南東に位置する港町だ。
 港貿易による発展を遂げたホウジュは、観光にも力をいれて、今では帝都の誇る観光街となった。
 ミナト区上空に着いたアリスは草太の要望に答えて、旋廻による空中観光を実行した。
「あちらに見えますのが、ミナト客船ターミナルでございます」
「その先にあるのがメイブリッジだよね?」
「おっしゃるとおりでございます。夜間照明に照らされるメイブリッジは、まるで天に掛かる天の川のようだと言われております」
 青く輝く海は透き通る透明度を誇るが、それも人目に付く場所だけである。浄化装置が海底に埋められているのは、誰もが知っていることだ。人目に届かない場所では海洋汚染が進み、ヘドロの底から悪臭を放つ泡が沸き立っている。
 観光にマイナスとなる場所を除き、アリスは草太を箒に乗せてぐるりとミナト区を一周した後、帝都公園に隣接するツインタワービルのすぐ側に降り立った。
 眼前に聳え立つ2対のビルは共に100階建てであり、100階と50階にある通路によって互いを行き来できる。
 舗道は二手に分かれ、右の道はイーストビル、左の道はウェストビルに続いていた。
「どちらのビルに参りましょうか?」
 アリスが尋ねると草太はう〜んと唸った。
「う〜ん、どっちがどっちだっけ?」
「左手に見えるウェストビルがショッピングビルになっており、イーストビルが主に企業向けになっております」
「腹へったしウェストでなんか食おうぜ」
「それでしたら、ご要望を申していただければ、古今東西のありとあらゆる料理店をご案内いたします」
「金ないし、ファーストフードでいいんだけど。デスバーガーとかないの?」
「デスバーガーより、ワルドナルドの方がリーズナブルですけれど?」
「バカにすんなよ!」
「そういうわけではございません。わたくしは情報の提供をしたまでです」
 この話はここまでというように、アリスは無表情のままウェストビルへ足を運ばせた。すぐ後ろから草太が追いかける。
「おい待てよ、おいってば」
「声を張り上げるとカロリーを消費し、余計にお腹を減らすことになしますよ」
 アリスを追うようにウェストビルに入った草他は、すぐに天井を見上げた。
 大ホールは1階と2階が吹き抜けになっており、2階の中央エレベータからは通路が蜘蛛の巣のように八方に伸びている。デザイン重視で使い勝手が悪いと利用者には不評だ。
 アリスは草太の要望どおりにデスバーガーに案内した。
 ホール中央の円形エレベーターに乗り、八方に伸びるガラス張りのトンネル上の通路を進み、眼に映るデスバーガーの看板。
 店内に草太が飛び込もうとしたのをアリスが無理やり押し倒して防いだ。
「なにすんだよ!?」
 それは草太が怒鳴ったのと同時だった。
 鼓膜を突く轟音と、爆発によって硝子の壁が砕け飛び散った。
 なにが起こったの状況を把握する前に、草太の身体は小柄なアリスに抱きかかえられた。
「この場は危険と判断いたしました。退避いたします」
 自分よりも身長の高い草太を抱きかかえながらアリスが走る。その行く手を妨害するように、再び店舗で爆発が起きた。それもひとつじゃない、次々と店舗が爆破されていく。
 この異常事態に人々は叫び逃げ惑った。
 ビルの出入り口には人が殺到し、将棋倒しのように人が倒れる。その光景を見た草他の顔は蒼ざめた。
「なんだよいったい!?」
「事態を把握するためには情報が少なすぎます。第1優先事項は草太様の安全確保でございます」
「帝都は危ないって聞いてたけど、まさかこんなに……」
「観光街での大規模な事件は稀でございます」
 ビルからの脱出を計ろうとと機械人形アリスが早口でコードを発動させた。
「コード000アクセス――50パーセント限定解除。コード005アクセス――〈ウィング〉起動」
 アリスの背中から骨組みだけの羽のような物体が出現した。それは金色に輝き、小さなフレアを放出していた。
 2階から飛び降り、吹き抜けのフロアを通って1階に飛翔する。が、空中でアリスは制止した。出入り口に群がる人々の前で超合金のシャッターが下り、出入り口を塞いでしまった。
 すぐにアリスは方向転換して、ガラス窓に向かった。
「本意ではございませんが、窓を破壊して脱出いたします」
「そうなことしていいのかよ」
「緊急事態でございます。コード003アクセス――〈コメット〉召喚[コール]」
 異空間からロケットランチャーを召喚したアリスは、片腕で草太を抱きかかえ、片手でロケットランチャーを持ち上げて肩に担いだ。
 アリスが衝撃に備えるように草太に忠告を促そうとしたときだった。
 防御システムが作動し、窓ガラスの外側が瞬時のうちにシャッターで覆われたのだ。
 すぐさまアリスはロケットランチャーをしまい、草太に説明せずに階段方向へ飛翔した。
 階段へ飛び込んだ瞬間、階段とフロアをつなぐ出入り口のシャッターを降りてしまい、アリスは飛翔をやめて草太を床に下ろした。
「閉じ込められてしまいました」
「おいおいおい、階段に閉じ込められたのかよ?」
「そうでございます」
「あっちにいた方がマシだったんじゃないのか?」
「この状況では、どちらとも判断いたしかねます」
 階段には何人もの人々がアリスたち同様に閉じ込められていた。普段はエレベーターやエスカレーターを使用する人々が多いが、爆発事故のためだろう、階段に逃げてきた人々が数多くいた。
 階段内に閉じ込められてもいっても、階段内であれば別の階への移動も可能だった。
「この場にいても仕方ありません。上と下とどちらに参りましょうか?」
 アリスが尋ねると草太は上を見上げた。
「そんじゃ上。つーか、上に行こうが下に行こうが変わんないじゃないの?」
「いいえ、この階段は50階と100階でイーストビルに繋がる連絡口と直結しております」
「なんだよ、だったら早く行こうぜ」
「――ただ、連絡口には出られますが、イーストビルがここと同じような状況であった場合は、イーストビルの階段には入ることができますが、フロアには当然ながら入ることができません」
「可能性に賭けようぜ」
「承知いたしました」
 二人は可能性に賭けて上の階へと向かった。