機械人形アリス零式
通話を切った夏凛はすぐさまアリスの顔を子猫の顔で覗き込んだ。
「アリスちゃん、お願いがあるんだけどぉ」
「何でございますか?」
「イーストビルが停電で困っている人がいるの。今からブレーカーを上げに行くんだけど、アリスちゃんも来てくれたらうれしいなぁ」
「バイト中でございます」
「イーストの電源を入れれば、情報屋の真クンがイーストの内部システムにアクセスしてイーストの防御システムを解除してくれるんだけどぉ?」
「そういうことでしたら、協力させていただきます。草太様はここで待っていてください」
「うん、わかった」
草太をこの場に残してアリスと夏凛は地下1階に向かった。
連絡通路に設置されているエレベーターはふたつ。片方の前に立ったアリスは辺りにいる人たちに声をかけた。
「今からエレベーターを爆破いたしますので、遠くに離れていてください」
こういったとたん、辺りから反発の声が上がった。
「エレベーターを壊すなんてとんでもない!」
「緊急用のエレベーターを壊したら脱出できないじゃないか!」
動かないとはいえ緊急用のエレベーターだ。そこに望みを託している人もいる。それを壊すなんてとんでもないということだ。
しかし、そんな輩の前に、夏凛が立ちはだかった。
「てめぇら、うっせーんだよ!! 今からビルのシステムを普及しに行くんだよ。なんか文句あっか!」
怒号を撒き散らす夏凛に、周りの人たちは圧倒されて静まり返った。
蒼ざめる人々の顔を見て、夏凛が冷静を取り戻して取り乱した。
「……な〜んちゃって、テヘッ」
お茶目に笑って見せる夏凛だが、本性を出してしまったあとではもう遅かった。人々は明らかに夏凛から距離を置いている。
周りから人がいなくなったのを見計らって、アリスがコードを唱える。
「コード000アクセス――30パーセント限定解除。コード003アクセス――〈コメット〉召喚[コール]」
ロケットランチャーを召喚させたアリスは、それをエレベーターの入り口に向けて構えた。
次の瞬間、轟々と爆音を鳴らしながらエレベーターのドアは破壊された。
巻き起こる硝煙の中で、夏凛は口を押さえて咳き込んだ。
「げほげほっ、撃つなら合図してよぉ」
「夏凛様なら平気かと思いまして」
「平気は平気だけどさぁ」
硝煙が収まってきたところで、夏凛は破壊されたドアの中を覗き込んだ。
下を覗き込むと、奈落にまで通じていそうな闇がどこまでも続いている。下に50階もあるのだから、闇が濃いのも当然だろう。
目の前にはエレベーターを吊るしているワイヤーが見える。これを伝えば下に降りれるだろうが、そんなめんどくさいことはしない。
「アタシ先に行ってるね」
夏凛は背中越しにアリスに手を振ると、闇の中にジャンプした。
ゴスロリのフリフリスカートを股のあたりで両手で押さえて、夏凛が闇の中を落ちていく。自分の重さを限りなくゼロにさせることのできる夏凛は、高いところから落ちても平気なのだ。
夏凛が落ちる中、上を見上げると、発行物体が急降下しているのが見えた。〈ウィング〉を装着したアリスだ。
水鳥の羽根のように、ふわりと夏凛は落下した。すぐにアリスが追いつき、〈ウィング〉の放つ光によって辺りが明るく照らされる。
どうやら、エレベーターの箱の上にいるらしいことが辺りを見回してわかった。となると、まずは箱の中に入る必要がありそうだ。
夏凛は足元にあった小さな扉を開けて箱の中に侵入した。すぐにアリスが追ってくる。
「アリスちゃん、ここ何回だと思う?」
「先ほど1階の扉を見ましたので、おそらくここが地下1階だと思われます」
「それじゃあ、そこの扉を開ければオッケーだね。アリスちゃん、そこのドア壊して」
「爆発に備えてください」
「オッケー」
店員32名の大エレベーターの隅で夏凛は壁に顔を向けてしゃがみこんだ。
再びアリスが〈コメット〉を召喚する。
「コード003アクセス――〈コメット〉召喚[コール]。発射いたします」
発射された弾はドアを爆砕し、爆音と硝煙が辺りを包み込んだ。
次の瞬間、硝煙の向こう側から銃声音と共に弾丸がエレベーターの中に乱射された。
「わおっ、手洗いお出迎えだこと!」
声をあげた夏凛のすぐ横を銃弾が掠める。
銃弾はアリスの身体に当たるが、外側のやわらかい人工皮膚を貫くことはできても、内部の硬い装甲の前で止まる。
「修理代がまたかさんで、マスターに小言を言われてしまいますわ」
アリスは露骨に嫌な顔をして、後ろにいる夏凛に命じた。
「夏凛様わたくし後ろへ!」
「オッケー」
「コード002アクセス――〈シールド〉召喚 [コール]。〈シールド〉01[ゼロワン]変形」
アリスの手に召喚された小型の半透明シールドが、小型からアリスを覆い隠すほど大きく変形した。
硝煙の向こうから、なお銃弾を浴びせられるが、その銃弾はすべてアリスの〈シールド〉が弾き返してしまった。
やがて、硝煙が収まると共に、銃弾の雨も収まった。
夏凛はアリスの肩越しに半透明の盾の向こうにいる人物を見た。人数は6人。スーツ来た5人が並んでこちらに向けて銃を構え、その後ろに格上らしい男が立っている。
並んでいるスーツ男たちを掻き割って、後ろにいた男が前に出た。
「〈氷の花〉がこんなところでなにをしている?」
〈氷の花〉とは裏社会での夏凛の通り名だ。
「それはこっちのセリフ、〈エッグボマー〉」
「俺の名前を知ってるとは、光栄だな」
夏凛たちの前に立つ痩せこけた長身の男の通り名が〈エッグボマー〉なのだ。
無精ひげを生やした顔は痩せこけ、よろよろのコート姿の冴えない中年の容貌とは裏腹に、その実態は爆弾魔として女子供を大量に殺してきた指名手配犯なのだ。
「仕事で俺たちじゃ邪魔しに来たのか?」
〈エッグボマー〉は咳き込むように口に手を当てて尋ねた。それにアリスの背中に隠れる夏凛が言葉を返す。
「たまたまビルに閉じ込められただけ。それより、あんたはこんなところでなにしてるの?」
「そいつぁー言えねぇな」
「ま、あたしには関係ないしー、言わなくていいよ。アリスちゃん銃を持ってるやつらは任せたから!」
夏凛が突如大ジャンプをして〈エッグボマー〉に飛び掛った。その手には異空間から召喚した大鎌が両手で握られていた。
迎え撃つ〈エッグボマー〉は嗚咽をしたかと思うと、口の中から白い卵状の物体を吐き出して夏凛目掛けて飛ばしたではないか!?
飛んでくる卵を夏凛は空中で身を翻しながら避けた。的を外れた卵は天井に辺り大爆発を起こす。卵に見えたものは爆弾だったのだ。
爆弾魔〈エッグボマー〉は体内で爆弾を製造できる特殊能力者だったのだ。
スーツ姿たちの銃は夏凛に向けられていた。しかし、その標的はすぐにアリスへと変わる。
「コード000アクセス――70パーセント限定解除。コード007アクセス――〈メイル〉装着。コード004アクセス――〈レイピア〉召喚[コール]」
すでに〈シールド〉を小型に戻していたアリスは、身体のラインを浮かび上がる白いボディースーツを装着し、〈レイピア〉を構えて男たちに向かって速攻を決めた。
作品名:機械人形アリス零式 作家名:秋月あきら(秋月瑛)