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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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機械人形アリス零式

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「なら仕方ありませんね、力ずくということになりますが」
「こちらも力ずくですのでお構いなく」
 先に仕掛けたのはアリスだ。
 召喚[コール]には数秒を有する。ならば速攻で相手に向かって攻撃を仕掛ける。
 激しく揺れたドレススカートが、まるで華のように開き回し蹴り放たれた。
 巨大な鴉とはいえ、その大きさはたかが知れている。蹴りを喰らって大きく飛ばされた。
 翼を大きく広げ空気抵抗を受け、彪彦は空中で制止した。
「この躰で戦うのは分が悪いようです。助けていただけませんか?」
 その乞いはアリスではなく、その後ろに向けられたものだった。
「もうギブアップかい? 影山さんらしくないね」
 その男の声を聞いてアリスは素早く振り返った。
 見覚えのある男が空中に立っていた。ピアニストにして、その正体はD∴C∴の魔導士――シュヴァイツ。
「やあアリス君、久しぶりだね」
 敵とは思えない爽やかな笑顔をアリスに贈った。
 シュヴァイツはアリスが持つ翼に似た飛行魔導具を背負っていた。
 目の前で殺気を放つアリスを差し置いて、シュヴァイツはその先にいる彪彦に視線を向けた。
「そうそう影山さん、やられたらしいよセーフィエルに。やっぱり5=6[アデプタス・マイナー]と6=5[アデプタス・メジャー]じゃまったく歯が立たないね。7=4[アデプタス・イグセンプタス]や第三団[サード・オーダー]だってわかっててやらせてるよね?」
「7=4であるわたくしの対する抗議も含まれていますか? たしかに、セーフィエルさん相手なのですから、せめて7=4が出向くべきだとわたくしも思いますがね。あの方の後ろ盾がない今、皆臆病者になっているのですよ」
「影山さんもかい?」
 意地悪な表情の質問を、鴉はまるであざ笑うかのような表情で返した。
「わたくしは無謀なことをするほど愚かでないだけです。それにセーフィエルさんの力を借りるにも、あんなやり方では無理でしょう」
「その言い草は可笑しいなぁ。アリス君の誘拐を企てて、今回の作戦を提案したのは君だろう?」
「ええ、失敗すると思ってましたよ。焦って暴動でも起こしかけないD∴C∴の団員たちに、一筋の光を与えてやったとでも言うのでしょうかね。希望を持って1つの目的に団結していれば、それなりに統率も取れるでしょう。そういうことなのですよ、アリスさん」
 急に彪彦はアリスに言葉を振り、さらに続ける。
「つまり、わたくしの目的はセーフィエルさんに非ず。本当は……貴女に興味があったから誘拐したんですよ」
 さらに彪彦はシュヴァイツに言葉を投げかける。
「ねえ、貴女もだいぶ興味があるでしょうアリスさんに?」
「あるね。僕ははじめてアリス君に出会ってから、ずっと興味を持ち続けているよ」
 二人に見つめられたアリスは、いつの間にか戦意を失っていた。
 ――なぜ、そんなにまで自分に興味を持つのか?
 おそらくその答えはアリス自身が持っている。彼女自身が己の存在が気になるように、周りもまたアリスの存在に疑問を抱く。
 アリスはマナのところに預けられてよかったと、今になって思っていた。マナはアリスのことを程度よく無関心であった。もっとも近くにいた存在が、アリスに無関心であったために、自己の存在を疑問に思わずに来れたのだ。
 そのままが幸せだったかもしれない。
 これほどまでに思い悩むことがあっただろうか。機械人形として、自己の存在を疑わずにいた頃は、決してここまで思い悩むことはなかっただろう。
 シュヴァイツの登場でアリスの心は微妙に揺れ動いていた。彼とは過去に幾度も刃を交えた。敵であることには違いないが、不思議な感情を彼に抱いていることも間違えなかった。
 元を辿れば、その出逢いが特異であったからかもしれない。
 はじめは敵としてアリスの前に現れたわけではなかった。
 クリスマス・イブのあの日、華麗なるピアノの調べ……今でもアリスの記憶に残っている。
 しかし、敵なのだ。
 力を借りるわけにはいかない。
 再びアリスは戦闘モードに入った。
 シュヴァイツは仕方なさそうに、少し憂いを含んだ瞳をした。
「肉弾戦は苦手なんだけどね……影山さん、サポートお願いできるかい?」
「元よりそのつもりです。わたくしの躰は誰かに使われることによって、その真価を発揮する魔導具ですから」
 シュヴァイツの手に留まった彪彦は〈鉤爪〉に変形して装着された。これで使用者たるシュヴァイツは何もせずとも〈鉤爪〉は自らの意志で攻撃を仕掛ける。
 手を掲げるアリス。
「コード001アクセス――〈ビームセイバー〉召喚[コール]、コード002アクセス――〈シールド〉召喚[コール]」
 光り輝く剣と盾を装備して向かい打つ。
 口を開けた〈鉤爪〉から魔弾が撃たれた。
 〈シールド〉で魔弾を弾きながら〈ビームセイバー〉で斬りかかる。
 アリスの蒼眼が見開かれた。
 なんと大きく口を開けた〈鉤爪〉の中に〈ビームセイバー〉が呑み込まれたのだ。
 〈鉤爪〉の中に広がる闇。その中で〈ビームセイバー〉の輝きは失われ、まるで喰われているようだ。
 驚いていたアリスの腹が長い脚に蹴り上げられた。
「いつも思う、君を傷つけることは不本意だと」
 シュヴァイツは溜息を吐いた。
 〈鉤爪〉の口から抜かれた〈ビームセイバー〉はその輝きを取り戻している。だが、アリスはその武器を戻した。そして、別の武器を召喚する。
「コード006アクセス――〈ブリリアント〉召喚[コール]6[シックス]、照射!」
 雨のようなレーザーを縫うように避けるシュヴァイツ。
 その隙にアリスはさらに召喚を続ける。
「コード004アクセス――〈レイピア〉召喚[コール]」
 鋭い〈レイピア〉で肉を貫かんと踏み込んだ。
 シュヴァイツは身を翻して躱そうとしたが、〈鉤爪〉がそれをさせなかった。
 突き出された〈鉤爪〉。
 突き刺された〈レイピア〉。
 なんと〈鉤爪〉は〈レイピア〉を呑み込み、そのまま前の進みアリスの手まで迫ってきた。
 アリスは〈レイピア〉を捨てるほかなかった。
 だが、間に合わない!
 腕の消失。後から襲ってくる強烈な痛み。
 ――機械人形である自分に、なぜ創造主セーフィエルは?痛み?を与えた?
 疑問をメモリーに過ぎらせながら、素早くアリスは身を引いた。
 痛みはすぐに治まる。尾を引かないのが人間との違いだ。
 しかし、破壊――というより消失した腕の傷口からは、循環液が垂れ流され、火花が散っている。
 〈鉤爪〉が追撃を仕掛けてくる。
 〈シールド〉が突き出された。大きく開いた〈鉤爪〉の口でも、〈シールド〉は呑み込めない。
「照射!」
 待機していた〈ブリリアント〉が一斉にレーザーを放った。
 この距離でシュヴァイツに躱す術はなかった。避けようと試みるが全てを躱せず、いくつかは〈鉤爪〉が呑み、一発が腕を掠り、もう一発が脇腹を焼き焦がし、さらに一発が背中の翼に当たった。
 左翼が破壊され、シュヴァイツの躰が左に傾いた。
 絶好のチャンスにアリスは攻撃を仕掛けた。
「照射!」
 レーザーは確かに発射された。だが、攻撃に気を取られ、防御がおろそかになっていた。