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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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機械人形アリス零式

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失なわれしアリス〜そして、ルナティックハイへ〜03


 逃げる……どこに?
 マナのところへは戻るなと言われた。
 行く所などない。
 ――ただの機械人形でしかないのだから。
 上空を彷徨い続けるアリス。
 今宵の満月は心象を表すように淋しい光で地上を照らしていた。
 魔鳥がアリスの行く手を阻んだ。
「どこへ行く気ですかアリスさん?」
 鴉の姿をした彪彦だった。
「貴方に答える筋合いはありませんわ」
 すでにアリスは殺気を放ち戦闘体勢を整えていた。
 だが、彪彦は殺気の欠片も見せていない。
「まあ、武器を収めてください。夜間飛行をしながら、ゆっくりとお話をしましょう」
「お断りさせていただきます」
「ご自分の正体に興味はありませんか?」
「わたくしはただの機械人形にすぎません」
 過去に何度も、自らを機械人形と称してきた。それはなんら不自然ではなかった。疑問すら浮かばな……いや、その疑念をわざと思わぬようにしていた。
 ただの機械人形では出せぬ表情をアリスはしていた。微かに戸惑い、それを必死に押し込めようとしている表情。
 アリスの表情を彪彦は見逃さなかった。
「やはり気になるようですね」
「いいえ」
 すぐに相手の言葉を打ち消した。それは動揺という感情。
 彪彦は聞かれてもいないのに話をはじめた。
「貴女はセーフィエルが人間であったときの妹……のコピーとも言うべき存在です」
「嘘です、わたくしは……わたくしは……」
 いったい何者なのか?
 明らかに戸惑うアリスに彪彦はたたみかけた。
「貴女の生まれた家系は一流とは言えないものの、力のある魔導士の家系でした。ただ、貴女は母親が妊娠中に魔導被爆したために、他の血縁とは似ても似つかない姿で生まれてきたそうです。金色の髪、蒼い瞳、今の貴女の姿は生前の生き写しらしいのですが、セーフィエルが証拠の多くを隠滅したらしく、写真も何も残っていませんが」
「証拠がないのなら、わたくしはとても貴方の話を信じるわけにはいきませんわ」
「我々も確たる証拠は持っていないのですよ、残念なことに。しかし、どこかに証拠が眠っていると我々は確信しているんですよ」
「…………?」
「貴女自身です。交通事故で死亡した貴女の遺体がどこにも葬られていないのです。おそらくセーフィエルさんは今もどこに?貴女?を隠している」
 もしも彪彦の話が本当だとして、もしもアリスが?アリス?のコピーであるならば……。
 ――今ここにいるわたくしは何者なのか?
 存在として、個体として、ある種の生命として、全てが偽りならば……。
 ――感情すらも、自己の意志すらも嘘なのか?
「わたくしはただの機械人形……」
 何も疑問に思うことはない。機械人形なのだから、感情など初めから偽りの作り物なのだ。
 本当にそうなのか?
 魂の奥から湧き上がってくる哀しみ。
 魂?
 果たして魂の定義とは?
「激しい動揺が顔に表れていますよ」
 彪彦はアリスの?心?を突いた。
 アリスは思いを振り払うように首を激しく揺らした。
「わたくしはただの機械人形でしかありません!」
 すぐさま彪彦は否定の言葉を投げかける。
「人間の脳を移植したサイボーグならまだしも、これほどまでに感情豊かな機械人形を未だかつて見たことがありませんよ」
「わたくしの創造主であるセーフィエル様であれば、どんなことでも可能な筈……」
「確かに、彼女の持つ魔導科学力は他の追随を許しません。実はこの躰は彼女の作品なのですよ。鴉形の魔導具にわたくしの魂が乗り移ったのです。そのな芸当ができる彼女ですら、今の貴女を作ることしかできずにいる……何か疑問を感じませんか?」
 セーフィエルはなぜ?今のアリス?を創った?
 事故で亡くなった妹を蘇らせるため――ならば別の方法もあった筈だ。
 機械の躰という容れ物を作り、さらに魂ではなくコピーというべきモノを注入した意図は?
 果たしてセーフィエルは妹の屍体をどこかに隠しているのか?
 それを使って死者蘇生を行えばよいのではないのか?
 それとも魂を魔導具に乗り移すことはできても、純粋な死者蘇生とはセーフィエルを持ってしてもできないことなのか?
 ここで彪彦はこんな誘いをした。
「探しに行きませんか?貴女?を?」
 この言葉でアリスの心が揺れ動いたのはたしかだった。だが、興味があっても『はい』と返事をすることはできなかった。
 自分が何者であるのか、それも気になるが……本当に屍体の?アリス?がいた場合、自己の存在を揺るがす事態になりかねない。とても恐ろしいことだった。
 返事をしないアリスに構わず、彪彦のおしゃべりは続いた。
「貴女は?貴女?の居場所を知っているのではないかと、わたくしは考えているのですよ。本体から記憶を容れ物に移す、あるいはコピーする場合、わたくしだったら全てを移し換えますね。記憶の一つ一つを選別して移すのは膨大な作業になりますし、ほぼ不可能に近い作業とも言えます。ならば全てを移したあとに一部の記憶にプロテクトをかけたり、暗示をかけたほうが効率的ではないかと……つまり、それを解除することによって、貴女は全てを知ることができるということです」
「貴方はそれをわたくしにしようと言うのですか?」
「はい」
 深く彪彦は頷いた。
 アリスは沸々と沸き立つ衝動を抑えられずにいた。
 ――知りたい。
 その欲望は強く、それを恐れる感情も強い。
 人間の感情ともいうべきモノで、アリスは悩み苦しんでいた。
 たとえ、自分の正体を知るとしても、この得たいの知れない魔導士に頼る必要はあるのか。
 セーフィエルに頼むことはできない。なぜか恐ろしくて、この話題すら尋ねることができないだろう。
 今のマスターであるマナはどうだろうか。いや、アリスはマナに対して心の底から信頼を寄せているわけではなかった。
 行く当てもなく、頼るべき相手もいない。それが今のアリスだった。
 では、やはり目の前の魔導士に――?
「貴方の力を借りることはできませんわ。たとえわたくしの記憶媒体にかけられている……かもしれないプロテクトを解いたとしても、そのあとでわたくしをまた人質に取るのでしょう? こうしてわたくしを追いかけて来たのも、全ては人質としての価値があるからでしょう?」
「追って来たのは貴女が言ったとおりの理由ですが、貴女に興味を抱いているのは純粋な好奇心です。その好奇心が満たされるなら、貴女を人質にしないと約束をいたしますが?」
「嘘ですわ!」
「嘘ではありませんよ。貴女を人質に取っても、セーフィエルさんが言うことを聞いてくれるかどうか……。おそらくすでにあの現場にいたうちの団員は全滅、数人はさっさと逃げてしまったかもしれませんね。セーフィエルさんは我々の手に余る存在です」
「だったら尚更、人質のようなモノが必要なのではなくて?」
「わたくしは他の団員と違って事を早急に進めたいわけではないので。封印の1つを失っている今、おそらくあの方の思念が漏れ出すのも、そう遠くない未来だと予測しておりますし」
 後半の言葉は独り言のような呟きだった。
 たとえ彪彦が約束を守ることが事実だたっとしても、それを信用する信頼関係がなかった。
「やはり貴方の力は借りませんわ」