小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

機械人形アリス零式

INDEX|1ページ/35ページ|

次のページ
 

アリス観光ガイド01


「本日、帝都の観光案内をさせていただくアリスと申します」
 アリスの顔を見た観光客――草太は驚きの表情を浮かべた。
「えっと、君が?」
「ええ、わたくしが案内役を勤めさせていただきます」
「マジで?」
「マジでございます」
 陶器のように白い肌をした少女は無表情のままそう言った。
 一見ドレスにも見える黒いメイド服を着た少女は、腰までたらした金髪の髪を風になびかせ、魔力のこもった蒼く透き通る瞳で直樹を見据えていた。そして、なぜか背中に自分よりも身長のある箒を背負っていた。
「まさか、案内役が子供だとは思わなかった」
「帝都は初めてでございますか?」
「うん、まあ」
「わたくしは機械人形でございます」
 この街では見た目で人を判断してはいけない。機械人形アリスは良い例だった。
「すげっ、生で機械人形見たっ!」
「普段わたくしは魔導師に仕えるメイドでございます」
「観光ガイドはバイトなわけ?」
「はい、主人[マスター]が家を空けておりますので、時間を持て余してしまうのでございます」
「バーの開店は夜からだもんな」
「えっ?」
 人形の顔に驚きの表情が浮かんだ。
「すげっ、機械人形って人間みたいに表情作れるんだ!」
「はい、わたくしを作った魔導師は、わたくしに表情を与えてくださいました」
「まるで人間だな」
 そう思ったとたん、目の前の美少女を意識し始めたのか、草太の頬がほんのりと赤く染まり始めた。
 人間離れした整った顔立ちは、さすがは作り物であると言える芸術作品だ。その中でもアリスは量産型ではないと共に、同じ美を再現するのは不可能だろう。それほどまでにアリスは完成させた存在だった。
 自分から不自然に視線を逸らす草太にアリスが尋ねた。
「どうかなさいましたか?」
「こんな可愛い子と観光できるなんて、ラッキーだなぁって思ってさ」
「わたくしは人形です」
「…………」
 きっぱりと言われ押し黙った草太に気を使うこともなく、アリスはさっさと仕事を始めた。
「どこか行きたい場所はございますか?」
「人がいっぱいいる繁華街がいいな」
「それですと、この辺りか、ミナト区あたりが安全面からも良いとかと思います」
「うんうん、ミナト区ってとこがいい。あれでしょ、そこってさ、ツインタワービルとかあるとこでしょ?」
「そうでございます。では、まずはツインタワーがある帝都公園に向かいましょう。ついて来てください」
 歩き出すアリスの背中に慌てて草太が声を掛けた。
「車の移動じゃないの?」
「わたくし普通乗用車の免許は持っておりません」
「マジで?」
「マジでございます。草太様の料金プランから考え、移動は電車とバスになります」
「めんどくさいよ」
「でしたら、今から帝都ツーリストにプラン変更の連絡を行えば、1時間以内に別の担当者が車でお迎えにあがりますが?」
「その場合、君じゃなくて他の人が案内役?」
「案内人とドライバーを別に雇えば平気です。が、その場合は料金が割り増しになります」
「そんな金ないから今のままでいいや」
 草太が旅行会社に申し込んだのは、1日観光の激安プランで、交通費や食事などは自腹ということになっている。案内役のアリスの仕事は単純な観光案内と観光者のボディガードだった。ちなみに草太は聞かされていないが、このプランの案内役は社員ではなく日雇いのバイトなのだ。
 アリスは背中に背負っていた箒を手に取って、胸の前で掲げた。
「交通手段は特別な物がご用意できますが、それになさいますか?」
「それって別料金かかるの?」
「無料でございます」
「そんじゃそれで」
「ただ、高所恐怖症の方や、ジェットコースターなどのアトラクションが苦手な方、心臓の弱い方にはお勧めできませんが?」
 まさか、と草太は考えた。箒を不自然に自分の前に掲げるアリスを見れば、自然とそんな考えも浮かんでくる。そもそも、あんな古めかしい箒を持ち歩いているのが不自然だ。あれで空を飛ぶに違いない。
「その箒で空を飛ぶの?」
「そうでございます。安全性については保障できかねますが、電車やバスよりも高速で移動ができます」
 外装もシートベルトもない棒に跨って空を飛ぶなど、安全性がどうとかこうとかという問題以前の問題である。そして、アリスは言わなかったが、帝都では公的な乗り物以外での地上から10メートル以上の無許可飛行行為は禁止されており罰せられる。箒での飛行行為は罰せられる対象だ。
 帝都ではジェットブーツと呼ばれる商品が売られているが、これは科学や魔導の力によって大ジャンプをする靴である。このジェットブーツは通常5メートルほどのジャンプ力しか発揮しないが、改造や違法品も多く出回っている。
 さも当たり前に用にアリスは箒に跨り、自分の後ろに手を差し向けた。
「本来一人用なので詰めてお乗りください」
「う、うん」
 詰めてと言われたが、草他はアリスから身体を離して箒に跨った。
「もっと詰めてください。そして、わたくしの胴をしっかりと両腕で抱え込むようにしてお掴まりください」
「う、うん」
「もっとしっかりと掴まないと落ちます」
「わかってるって……」
 アリスの胴にゆっくりと腕を回し、顔を少し紅くする草太だが、それに比べてアリスの表情は無表情そのものだ。機械人形と言えど、身体を密着させることに抵抗感を感じ、へっぴり腰になる草太に、アリスがなんの感情も抱いていないことがわかる。
「それでは浮上を開始いたします。これに伴う事故等に関しては、一切責任を負いません」
「マジで?」
「マジでございます」
 箒が風を起こしながらアスファルトの地面から30センチほど浮いた。ここまではゆっくりと浮上し、すぐに一気に天高く浮上する。
 水に浮くような生易しい浮遊感ではなく、強烈な圧迫感が草太の身体を襲った。
「もっと優しく!」
「口をお閉じください。舌をかみます」
「ぐっ!?」
 案の定、草他は舌をかみ、アリスの指示通り口を閉じることになった。
 浮上を続けた箒は地上から約100メートルまで達した。それでも辺りにはアリスたちよりも背の高いビルが天を衝く勢いで立ち並んでいる。
 中でもひときわ目立つのは帝都タワーと呼ばれる二等辺三角形の電波塔だ。
 地上8階の駅ビルなどは、ずいぶん下に見ることができ、車はまるでミニカーのようだ。
 この辺りは帝都でも3本指に入るビル街で、都外からの足であるリニアモーターカーもギガステーションから運行されている。
 都内でもリニアモーターカーが止まる駅は3箇所しかない。そのひとつがアリスたちの眼下にあるギガステーション・ホウジュだ。
 ホウジュ駅は繁華街としても有名で、都外からの観光客も多いとともに、若者の街としても有名だ。特にホウジュセンター街は混沌とした活気に溢れており、危険を孕んだ帝都の闇が見え隠れしている。違法ドラッグはもちろん、武器や危険な魔導具も出回っている。それでもホウジュは大きな街であることから帝都警察の監視の目はきつく、出回っている違法品は帝都全体で考えれば軽い物ばかりだ。
「カモにされるのはなにも知らない観光客ばかりでございます」
 とホウジュ上空で草太に説明をしたアリスは、箒を走らせて東の空に向かって飛んだ。