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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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機械人形アリス零式

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 1923年に起きた関東大震災がマグニチュード7.9であり、当時の死者は約10万人のぼり、行方不明者は4万人を越える。
 大都市ホウジュ区には10万人以上の人間がいる。半径5キロは面積の半分にも満たないが、それでも悲惨な状況に見舞われるのは目に見えている。
 都市を守りたいという使命感がアリスにはあるわけではなかったが――。
「先ほども申しましたが、ホウジュ区の屋台のたこ焼きが主人[マスター]のお気に入りなので、ホウジュ区が壊滅状態になるのは大変困ります」
「そんなに美味しいたこ焼きなら僕も食べてみたいが……」
 シュバイツは微笑を一転させ、冷笑を浮かべた。
「残念ながらこの計画は3年以上前からのものでね。途中でやめるわけにはいかないんだよ」
 とても残念そうにアリスは俯く。
「そうでございますか……わたくし、?マジ?強いですけれど、それでも殺りましてございますか?」
 アリスが顔をあげたとき、唸り声をあげたチェーンソーはすぐそこまで迫っていた。
 冷静沈着に、アリスは無表情の瞳で唱える。
「コード000アクセス――90パーセント限定解除。コード007アクセス――〈メイル〉装着」
 アリスの身体を包み込む白いボディースーツ。
 高速回転するチェーンソーの刃をアリスは腕を受け止めた。
「ダイアモンドカッターでも3分間ほど防ぐことができます。ただし、そこに?業?が加えられれば話は別ですが……」
「うごごごごっ!」
 ドーガは刃を食いしばりながらチェーンソーに力を込めたが、アリスの腕を切断することはできない。刃が火花を散らせ、空気が焼ける臭いだけがした。
「力押しでは一生切れません。パイプで人が斬れるくらいでございませんと」
 蒼い眼は氷の冷笑を、口元は悪戯な嘲笑を浮かべていた。ただの機械には作りえない表情であった。
 よりいっそうチェーンソーに力を込めるドーガ。
 それでもボディースーツが切ることはできなかった。
 一向に先に進まない敵の攻撃を、いつまでも待っているほど、アリスはお人よしではない。
「コード001アクセス――〈ビームセーバー〉召喚[コール]」
 輝く粒子のソードを別空間から転送させ、アリスは自分の手元に召喚した。
 残像を残しながらソードがドーガの中を翔ける。
 ドーガの腰から肩まで鮮血が線をつくり、間を置いて血が一気に噴出した。
「あががあが……」
 巨大な胴体がずるりと床に落ちた。
「鋼の肉体が通用するのは通常の武器だけでございましたね」
 巨漢をあっさりと真っ二つに切ったアリスはドライを捕らえているキラに、挑発するような冷笑を浴びせた。
「かわいそうなドーガだぜ。けどな、あいつはドジでのろまで使えねえ奴なんだよ。強いのはこのオレ様」
 予備のヨーヨーを2個取り出し、俊足のキラがアリスに挑む。
 キラのスピードは人外の速度に達し、目で追うことはできても捕まえることはできそうもなかった――人間ならば。
 誘導ミサイルのように、糸を曲げながら2個のヨーヨーがアリスに魔の手を伸ばす。
 〈ソード〉を構えたアリスはヨーヨーを迎え撃った。
 バッドスイングされた〈ソード〉がヨーヨーを打ち返す。だが、〈ソード〉とヨーヨーが触れた瞬間、大爆発を起こしたのだ。
 目の前の爆発で吹き飛ばされるアリス。
 それを見たキラが笑う。
「キャハハハ、ザマーみろ!」
 ヨーヨーはキラの意志によって爆発を起こす仕組みなっていたのだ。
 石床に手をついて立ち上がるアリスの顔は煤で汚れていた。しかし、その陶器のような肌には一切の傷もついていなかった。
「髪が少し痛んでしまいましたが、その程度の爆発ではなんの損傷もございません……残念ながら」
「コロス、コロス、コロス!」
 キラの手からヨーヨーが放たれる。
 だが、いくら攻撃しても同じだ。
 〈ソード〉でヨーヨーを弾きながらアリスがキラに詰め寄る。
 大きく〈ソード〉が横に振られた。
 ――空を斬った。
 アリスの移動速度をキラは超えていた。重量の重いアリスは人間より少し早く動ける程度の移動速度しか出せないのだ。ただし、オリンピックに出られれば全種目は制覇できる。
 〈ソード〉を躱したキラは高らかに笑った。
「キャハハ、ノロマ!」
「その点に関しましては、わたくしを創った魔導士に申してください。コード009アクセス――〈イリュージョン〉起動」
 キラは目を疑った。
 アリスの残像が2つに分かれ、2人のアリスが現れたのだ。
 ふたりのアリスは鏡に映ったように同じ動きをした。
 キラの左右を囲むアリスが唱える。
「コード006アクセス――〈ブリリアント〉召喚[コール]」
 二人のアリスが輝く球体を呼び出し、計12個の球体から一気にレーザーが照射された。
 さすがのキラにもレーザーすべて躱わす術はなかった。
 肉の焼けた臭いが鼻を衝き、キラは床の上を転げまわった。膝が黒く焼け焦げている。
「痛てぇよ、痛てぇよ、クソヤロウ! 痛くて歩けねえ!」
 突然、聖堂内に拍手が鳴り響いた。
「ブラボー、大変素晴らしいよアリス君」
 それはシュバイツだった。
「実に君は素晴らしい、ただのキリングドールとは思えないね」
「ええ、S級でございますから」
 S級――それはつまり軍隊でも相手にできるという意味だった。
「僕の所有物になるつもりはないかい?」
「ございません」
 きっぱりとアリスは断言した。
「それは残念だ……ならば仕方ない。武器は海に落としたけれど、ボクシングは剣にも勝てると思っているんだ。シャドウフック!」
 なにもない場所からアリスは頬に衝撃を受けて横に飛ばされた。
 アリスが立ち上がるよりも早くシュバイツが消えた。
「シャドービハインド!」
 声だけが聖堂に響く。
 どこに消えた?
 シュバイツはアリスの真後ろに立っていた。
 振り向いた瞬間、アリスは顔面にパンチを浴びて後方に吹っ飛ばされて、並んでいた備え付けの木の座席を何重にも渡ってぶち壊してしまった。
「申し訳ないが僕はフェミニストじゃないんだ」
 シュバイツは冷笑を浮かべていた。
 立ち上がりながらアリスは自分の頬に触れた。
「装甲が3ミリほどへこんでしまいました……修理が終わるまで外を歩けませんわ」
 ドーガとキラが傷一つ負わせることのできなかった相手に、シュバイツはただ一撃のパンチで装甲をへこませたのだ。
 いや、違った。
「5発ほど入れさせてもらったんだけど、やっぱり君は硬い」
 とシュバイツは言った。そう、実は一瞬の間にシュバイツはアリスの顔面に5発のパンチを食らわしていたのだ。
「しかし、今のは小手調べ。本当は20発は入れられた」
「武器を持っていたらもっとお強いのでございますか?」
「こけおどしくらいの魔導は使えるんでね。これでもD∴C∴の幹部のひとりだから――?」
 シュバイツは殺気に気づいた。
「ならここで死にな!」
 そこにはヨーヨーの糸を抜けて拳銃を拾って構えたドライの姿が!
 引き金に手をかけたドライの様子が可笑しい。
「チッ!」
 ドライは舌打ちながらセミオートをシュバイツに投げつけた。
 動作不良[ジャミング]で弾が打ち出さなかったのだ。