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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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機械人形アリス零式

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 魔導アーマーのスピーカーから声が響く。
「電子マニュアルをご丁寧に用意してくれた助かった。やっと武器を使用する仕方がわかってきたよ。しかし、実に操作が難しいね。まるで立体パズルじゃないか」
 魔導アーマーのその先で倒れていたゼクスがゆっくりと立ち上がった。
「……っウチとしたことが計算ミスや」
 失笑を浮かべるゼクスの左半身は衣服が焼け焦げ、肉が剥がれ落ちていた。だが、そこにあったのは白い骨ではない。鋼色に輝く機械の身体だった。
 金属の身体は先ほどの攻撃で穿たれ破損し、内部をさらけ出して火花を散らしていた。
「立ち上がったのはいいけど動けへん」
 ランドセルから修理システムのドライバーやコードが飛び出し、破損したゼクスの身体を修理しはじめる。
 ゼクスは自分の身体の修理をさせながら、ランドセルから出たままになっているレーザー砲を魔導アーマーに向けて放つ。
 真正面の攻撃を避けれないわけがない。
 しかし!?
「なに!?」
 スピーカーから動揺の声が漏れた。
 魔導アーマーの身体が思うように動かない。理由はその影にあった。なんと魔導アーマーの影にアリスの放った影針が刺さっていたのだ。
 身動きを奪われた魔導アーマーは2対のレーザーの直撃をもろに喰らい、すかさずアリスが魔導アーマーに飛び掛った。
 かろうじて動く魔導アーマーのアームがアリス目掛けて振られるが、アリスはその腕に自ら飛び込んだ。
「コードΩアクセス ――〈メルキドの炎〉1パーセント限定起動。昇華!」
 全てを焼き尽くす天の業火が魔導アーマーの身体を包み込む。
 装甲に覆われていたアーマーの表面が熔ける。だが、これも致命傷にはならず、魔導アーマーの影に刺さっていた影針を焼き尽くし、魔導アーマーに自由を与えてしまう結果になった。
 真っ赤に色付く魔導アーマーが奇怪な悲鳴をあげながら、アリスの頭上に覆いかぶさるように襲い来る!
「コード009アクセス―― 〈イリュージョン〉起動」
 巨大な塊に圧し掛かられたアリスの身体は押しつぶされ、空間の中に溶けるように消えた。
 ――イリュージョン。
 イリュージョンによって分身したアリスの本体は、高温を発する魔導アーマーの紅い脚に抱きついていた。
「コード008アクセス―― 〈ショックウェーブ〉発動」
 超強力な電磁パルスが魔導アーマーの身体に走った。
 火花を散らしながら魔導アーマーが奇怪な音を立て、そして身動きを止めた。ついに魔導アーマーを仕留めたのだ。
 アリスの戦いぶりを見ていたゼクスは感嘆した。
「普通の電磁攻撃で倒せる魔導アーマー参號機やない。装甲を熔かしたのが利いたんや」
 戦いを終えたアリスのボディーツは酷く焼け焦げ熔解し、美しい金髪も半分以上溶けてしまっていた。
 アリスの思考回路がノイズを発し、膝から床に崩れ落ちるアリスのすぐ横で、魔導アーマーのハッチが開いた。
「危ないところだった。これに乗ってなければ死んでいたよ」
 ハッチを開け、太った巨漢が脂汗を垂らして這い出て来た。搭乗していた〈マッドイーター〉は無傷でいきていたのだ。
 逃げようとする〈マッドイーター〉を見ながらもゼクスは未だ動けず、アリスのシステムもショート寸前だった。だが――。
「コード004アクセス――〈レイピア〉召喚[コール]」
 槍を召喚したアリスは、それを力いっぱい背を向ける〈マッドイーター〉に投げつけた。
「ぐあっ!?」
 投げられた〈レイピア〉は〈マッドイーター〉の腹を勢いよく貫通し、腹に開いた大穴に強風が吹き込んだ。
「まさか……まさか……この僕が……」
 腹を押さえよろめきながら、〈マッドイーター〉は屋上を囲うフェンスに激突した。
 巨躯に体当たりされたフェンスは、その体重を支えきれず大きな音を立てて外れてしまった。
 屋上に吹き荒れる風。
 巨大な身体が死のダイブをした。
 絶叫は風にかき消されたか、アリスたちの耳に届くことはなかった。
 遥か地上100階から落下した肉塊は地上に叩きつけられ、水のように跡形もなく弾け飛んだ。デブ男は死んだのだ。
 ようやく修理を終えたゼクスが床に倒れるアリスに駆け寄った。
「しっかりせい!」
「バッテリーを取替えてくだ――」
 言葉を最後まで発することなく、アリスのシステムは停止した。エネルギーを全て使い切ってしまったのだ。
「ウチの研究所で修理するから安心せい。にしても、魔導アーマー参號機がやられてしもうたな。改良の余地ありやな」
 ゼクスはアリスの応急処置をしながら、救助のヘリが来るのを待つことにした。まだウェストビルのシステムコンピューターの修理も終っていなかった。

 ツインタワーでビルがあった次の日、アリスは再びツインタワービルに訪れていた。
 ウェストビルの営業は今日も行われ、事件の次の日だというの客もそこそこ入っている。
 あちらこちらで壊れた店内が立て直される中、事件のせいで辞めてしまった人々の変わりに、すぐにバイトの募集が行われていた。アリスもそのバイトに応募し、すぐにでも履歴書を持って来るように言われたのだ。
 稼動しているエレベーターに乗り込むといつも以上の込み具合で、アリスは人の波に押されてエレベーターの奥へと追いやられた。
 満員のエレベーターの中で身動きできないアリスの胴に、後ろから何者かの手が回された。痴漢かもしれないと思いアリスは振り向こうとしたが、その前に何者かの顔がアリスの耳元に近づいた。
「後ろを向いちゃダメだよ。エレベーターに乗ってる全員が人質だ」
 それはアリスにしか聞こえない小さな声だった。
「アリス……僕は美しい君のことを手に入れたくなった。けれどね、さすがの僕でも?機械?を喰うことできない」
 まさか!?
 しかし、〈マッドイーター〉はあの時に死んだはずでは?
 エレベーターが止まり、人の流れに乗ってアリスの真後ろに立っていた謎の男が降りて行った。
 そして、エレベーターを降りる寸前、スラリと伸びた長身の身体をを少し傾け、端整な顔立ちを静かに向け、優しく微笑んだのだった。
 アリスはその場を動かず、エレベーターの扉は固く閉ざされたのだった。

 アリス観光ガイド 完