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短編集40(過去作品)

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――あれが本当の俺なのか――
 と思うと、今の自分の存在がどんどん否定されてくるように思えてならない。
――こんな俺だから和江が悩むんだな――
 元々最初に好きになったのは和江の方からだっただろう。そうでなければ普段あれだけ本音を言わない和江の口から、
「強い力で満たされたい」
 などとは出てこないはずだ。
 和江も女である。情が入ると男性である中島には想像もつかない気持ちになるだろう。もし鏡に写っている表情を柴田がしたとすれば、和江が惹かれるのも無理のないことかも知れない。
 中島は今後悔の念に苛まれている。
――反省はするが、後悔はしない――
 というのがモットーだった中島は、その根拠が自分中心に考えていることだった。
 まず自分中心に考えれば反省はあっても、後悔はないだろうという考えだったが、それもすべてを半分のところで割り切って考えてきたからに違いない。
 そこに迷いはないのだ。迷ってしまえば後悔が襲ってくる。要は半分を見切れるかどうかに掛かっている。
 今自分の存在が鏡によって否定されようとしている。そこには半分で割り切れないものがあることに気付いた自分がいる。
「四捨五入」
 五を中心に下は切捨て、上は切り上げ……。
「五捨五入」
 五を切捨てるのか、切り上げるのか、「五」という数字はまさしく自分自身。そして、それが後悔という言葉に結びついていることに初めて気がついたのだった……。

                (  完  )

作品名:短編集40(過去作品) 作家名:森本晃次